2020年6月24日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その45]






「あのお、似てるって、云われません?」

ビエール・トンミー氏は、江ノ島の『シーキャンドル』の展望デッキで、頼まれて写真を撮ってやった二人連れの若い女性の一人から、顔を間近に寄せられた。

「(んぐっ!)」

『条件反射』であった。フレグランスなのか、シャンプーの香りなのか、はたまた若い女性の甘い口臭なのか、芳しい香りに襲われたのだ。

「ジョージ・クルーニーに似てますね。ウフっ」
「ジョージ・クルーニー?」

『「ジョージ・クルーニー』は、名前は聞いたことがあり、海外の俳優であろうとは思えたが、ビエール・トンミー氏は、それがどんな俳優であるのか、顔を思い浮かべることができなかった。

「もっと若ければ、山崎賢人にも似てるう」

もう一人の若い女性も、ビエール・トンミー氏の顔を覗き込むようにして云った。

「『ヤマザキ・ケント』?」

『ケント』というと、ビエール・トンミー氏は、ケント・デリカットかケント・ギルバートしか思い出せなかった。

「おい、『世界まるごとHOWマッチ』じゃないぞ」




『病人』として項垂れていたはずのエヴァンジェリスト氏が、友人の心を読んだかのような言葉を掛けた。しかし、

「(あの時もそうだった…)」

ビエール・トンミー氏は、独り回想の世界に入っていっていた。

「(あの時も、写真を撮って欲しいと頼まれた)」

『シーキャンドル』の展望デッキの手摺に、『みさを』と並んで腕を置き、鎌倉方面を眺めていると、

「あのお、写真、撮って頂けますか?」

と、背後から、二人連れの若い女性が、キャノンのカメラ『AE-1』を差し出してきていた。

「じゃあ、撮りますよお。はい、チーズ」

と、写真を撮ってやった後、

「あのお、似てるって、云われません?」

と、その時も、二人連れの若い女性の一人が、顔を間近に寄せながら、云ってきたのだった。


(続く)



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