(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その44]の続き)
「あのお、似てるって、云われません?」
ビエール・トンミー氏は、江ノ島の『シーキャンドル』の展望デッキで、頼まれて写真を撮ってやった二人連れの若い女性の一人から、顔を間近に寄せられた。
「(んぐっ!)」
『条件反射』であった。フレグランスなのか、シャンプーの香りなのか、はたまた若い女性の甘い口臭なのか、芳しい香りに襲われたのだ。
「ジョージ・クルーニーに似てますね。ウフっ」
「ジョージ・クルーニー?」
『「ジョージ・クルーニー』は、名前は聞いたことがあり、海外の俳優であろうとは思えたが、ビエール・トンミー氏は、それがどんな俳優であるのか、顔を思い浮かべることができなかった。
「もっと若ければ、山崎賢人にも似てるう」
もう一人の若い女性も、ビエール・トンミー氏の顔を覗き込むようにして云った。
「『ヤマザキ・ケント』?」
『ケント』というと、ビエール・トンミー氏は、ケント・デリカットかケント・ギルバートしか思い出せなかった。
「おい、『世界まるごとHOWマッチ』じゃないぞ」
『病人』として項垂れていたはずのエヴァンジェリスト氏が、友人の心を読んだかのような言葉を掛けた。しかし、
「(あの時もそうだった…)」
ビエール・トンミー氏は、独り回想の世界に入っていっていた。
「(あの時も、写真を撮って欲しいと頼まれた)」
『シーキャンドル』の展望デッキの手摺に、『みさを』と並んで腕を置き、鎌倉方面を眺めていると、
「あのお、写真、撮って頂けますか?」
と、背後から、二人連れの若い女性が、キャノンのカメラ『AE-1』を差し出してきていた。
「じゃあ、撮りますよお。はい、チーズ」
と、写真を撮ってやった後、
「あのお、似てるって、云われません?」
と、その時も、二人連れの若い女性の一人が、顔を間近に寄せながら、云ってきたのだった。
(続く)
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