「え?」
『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで体を横たえるビエール・トンミー氏の言葉に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思わず、口を開いたままにした。
「(トンミーさんが、負けた?)」
そうだ。ビエール・トンミー氏は、『ボクの負けだ…』と云ったのだ。
「(ということは、私の勝ち?)」
ピンとこない。
「(でも…最初の『戦い』は、私、気を失ったみたいになちゃったから…)」
前夜の『第1戦』は、ビエール・トンミー氏の猛烈な『凶器』攻撃に失神したような状態になり、最後をよく覚えていない。
「(あ!トンミーさんも、『ウーッ!』って倒れ込んだような…)」
そんな気もしたが、定かではない。
「(今の『戦い』も、2人とも倒れ込んじゃって、ダブル・ノックダウン?)」
円形ベッドという『リング』(だとマダム・トンミーは思い込んでいる)に並んで体を横たえている状態は、まさにダブル・ノックダウンか、
「(ひょっとして60分フルタイム・ドロー?猪木さんとドリー・ダンク・ジュニアのNWA世界ヘビー級戦の時みたいに?)」
とは思うものの、アントニオ猪木とドリー・ダンク・ジュニアの2度共、60分フルタイム・ドローで終ったNWA世界ヘビー級戦は、まだ幼かったマダム・トンミーは実際に見たことはなく、知識として知っているだけであった。
「(でも、トンミーさん、『ボクの負けだ…』って…やはり、私の勝ち?確か、トンミーさん、また、『ウーッ!』って…)」
壮絶な戦いをした後、プロレスラーは、自分がどんな試合をしたのか覚えていないことがあることを思い出した時、
「君となら…」
ビエール・トンミー氏が、『原宿のアラン・ドロン』な視線を送ってきた。
(続く)
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