2021年1月10日日曜日

バスローブの男[その69]

 


「(ひゃっ!)」


胸が冷たさを感じた。『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』が、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、猛獣と化したビエール・トンミー氏の口臭によって、『うっ!臭い!臭いけど…』と、ダブル・ミーニングに意識を失いかけていた時であった。


「(へ?)」


胸に当てていたものが取られたことを感じた。だから、胸に冷たさを感じたのだ。


「(ま、まさかあ!)」


プロレスで、入場時のリング衣装を剥ぎ取られることはあるものなので、サッシュ・ブラウスを取られたことは驚きはしたものの、想定内の展開ではあったが、まさに、『ま、まさかあ!』で、試合着まで剥ぎ取られるとは思っていなかったのだ。


「(怖い!トンミーさんって、怖い!でも凄い!猪木さん以上だわ。第一回IGWPの決勝というそれ以上に大事な試合はないという試合で、ハルク・ホーガンに負けてみせた猪木さんを超えてるわ!」


マダム・トンミーには、アントニオ猪木と戦うビエール・トンミー氏の姿が見えてきていた。




「(カリスマ中のカリスマだった当時のボクシング世界ヘビー級チャンピオンのモハメッド・アリと戦うなんて、誰も信じやしなかった一戦を実現させたり、ソ連のアマチュア・レスラーたちをレッドブル軍団としてプロレスのリングに上げたり、イラクの人質解放をを実現した猪木さんでもできなかったことよ!)」


胸が露わにされたことを忘れ、いや、そのことは忘れてはいたのではなく、むしろ、そのことで興奮の極みに達しようとしていた。


「(まさか、こんなことをされるなんて思いもしなかったわ!)」



(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿