「(トンミーさんって、プロレスラーっていうよりも『獣』だったのね)」
『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せている『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、会社では紳士にしか見えなかったビエール・トンミー氏が、実は、荒々しいプロレスラーどころか、『獣』そのものであることを知ったのだ。
「(まさに『原宿の凶器』だったわ!)」
ビエール・トンミー氏を称して云われていた『原宿の凶器』が、広義には、ビエール・トンミー氏の存在そのものであり、狭義には、ビエール・トンミー氏の体のある一部を指すものであることを、マダム・トンミーは、身を以て知ったのだ。とはいえ、
「(あんな『凶器』を使うなんて、あれがトンミーさんのプロレス?!)」
前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をマダム・トンミーはまだ、プロレスだと思っていた。
「(あんな『凶器』攻撃をしてくるなんて、酷い!もう私、ボロボロ…)」
マダム・トンミーは、肩だけ出していたベッドのシーツを少し上げ、その中を見た。
「(でも、うふっ…)」
ピンクに染まった自分の体を見て、思わず、肩を窄め、口の両方の端を上げた。
「(ああ…っ!)」
ビエール・トンミー氏の残り香の『獣臭』と自分の体臭とが入り混じった独特の臭いが、マダム・トンミーの鼻腔を突き上げた。
「(でもお…私も!)
マダム・トンミーは、彼女の鼻腔を突き上げてきた臭いで思い出した。自分も『獣』になったことを。
その時……
(続く)
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