「やあー!」
その声に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、完全に覚醒した。声の主の男は、『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、仁王立ちしていた。
「おはよう!」
男は既に、30歳台半ばであったが、その声は、まだ青年の爽やかさを保っていた。
「ああ…」
マダム・トンミーは、円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、男の挨拶に応えるというよりも、声を漏らした。白いガウンを着たその男は、最初、そう、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたが、『今』、
「(トンミーさん!)」
であることを知った。
「(リング・ガウンを持ってらしたのね)」
前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をまだ、プロレスだと思っていたマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が着ているバスローブを、プロレスラーがリング登場時に身に着けるガウンだと思っていたのだ。
「昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!」
白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドに近付いてきた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿