2021年1月20日水曜日

バスローブの男[その79]

 


「やあー!」


その声に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、完全に覚醒した。声の主の男は、『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、仁王立ちしていた。


「おはよう!」


男は既に、30歳台半ばであったが、その声は、まだ青年の爽やかさを保っていた。


「ああ…」


マダム・トンミーは、円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、男の挨拶に応えるというよりも、声を漏らした。白いガウンを着たその男は、最初、そう、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたが、『今』、


「(トンミーさん!)」


であることを知った。


「(リング・ガウンを持ってらしたのね)」


前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をまだ、プロレスだと思っていたマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が着ているバスローブを、プロレスラーがリング登場時に身に着けるガウンだと思っていたのだ。




「昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!」


白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドに近付いてきた。



(続く)




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