「(ああ、『逆さクラゲ』!)」
まだ半開きの眼のままの『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ようやく、自分がいるのが、『逆さクラゲ』であることを思い出した。
「(そうだわ、『お局様』と…)」
マダム・トンミーは、社内の女性社員の憧れの的で『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれるビエール・トンミー氏が、人事総務部の古株の女性社員である『お局様』と池袋西口の『逆さクラゲ』から出てくるのを見たという噂があると聞いたことを思い出した。
「(『ラブホテル』…)」
『逆さクラゲ』とは、『連れ込み宿』のことで、今でいう『ラブホテル』であることを同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。そして、『ラブ』つまり『愛』を確かめ合う場所であることも。
「(そう、『組んず解れつ』だったわ)」
『愛』を確かめ合う為に、ベッドの上で『組んず解れつ』する場所であることも思い出した。そして、『組んず解れつ』とは、つまり、プロレスすることであると知ったことを(誤解であるが)、思い出した。
「(『原宿の凶器』!)」
更に、プロレスと云えば、凶器がつきものであり、ビエール・トンミー氏は、『原宿の凶器』とも呼ばれていることを、やはり同僚のトシ代に教えてもらったことを思い出した。
「(トンミーさん…プロレス……)」
『原宿の凶器』ということは、やはりビエール・トンミー氏はプロレスをするのだ、と確信したことが、脳裏に蘇って来た。
「(『お局様』とだけでなく、私とも一戦を、って….)」
ビエール・トンミー氏とプロレスをし、ヘッドロックに捉えられ、レフェリーの眼を盗んだ凶器攻撃で、額を突枯れる姿を想像し、余りの興奮にお漏らしをしそうになった感覚を今、再び感じ、マダム・トンミーは、自分の身を包んでいるベッドのシーツの中で、両脚を窄めた。
(続く)
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