「(ええ?......)」
視界が遮られた『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、今、自分に何が起きているのか、理解できなかった。
「(あ!)」
何も判らない中、マダム・トンミーの右手が掴む『ツチノコ』が暴れ、その手で静止しきれず、彼女に突進してきた。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏と『ナメクジ』プロレスをしながら、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏のズボンの中に差し込んだ右手の中に掴んだものを、最初はピストルと思い、次にそれが実はロケットだと感じ、今はそれを『ツチノコ』のような『未知の生物』と捉えていたのだ。
「うおー!」
遮られた視界の向こうで、叫び声が聞こえた。
「(この声は…)」
と問うまでもなく、その声が、ビエール・トンミー氏の声であることは分っていた。ビエール・トンミー氏が、それまで以上の攻勢に転じてきたのだ。
「(でも、何なの?どうして…)」
どうして、視界が遮られているのかが、判らなかった。右手の『未知の生物』に気を取られている内に、それまで『ナメクジ』プロレスをしていたことを忘れていた。そして今、顔面の前に、自分の視界を遮る何かがあり、『ナメクジ』プロレスが中断されていることにようやく気付いた。…と、
「うおー!うおー!」
眼前に突然、ビエール・トンミー氏の叫び声が現れた。いや、叫ぶビエール・トンミー氏の顔が、そして、血走るとはこのようなことかと思わせる程に血管の走ったビエール・トンミー氏の両眼が現れた。
(続く)
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