「(あ、いや。プロレスが八百長だなんて云ってしまうと、アイツ、100倍云い返してくる)」
と、ビエール・トンミー氏が、友人のエヴァンジェリスト氏に対する警戒心から、身をキュッと引き締めたが、エヴァンジェリスト氏の暴走を止められるものではなく、エヴァンジェリスト氏から質問であった質問ではないiMessageが届いた。
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「アンタあ、『ルー・テーズ』知っとるじゃろ?」
「はあ?なんや、プロレスラーなんか?」
「おお、やっぱり『ルー・テーズ』くらいになると、アンタも知っっとんじゃね。伝説のレスラーいうてもエエくらいじゃけえね」
「知っとるとは云うとらへんで」
「その『ルー・テーズ』がのお、云うたんじゃそうなんよ。『今のプロレスは“コリア・グラフト・タンバリン”だよ』とのお」
「はあ?『タンバリン』?なんで、『タンバリン』が出てくんねん?興味はあらへんけど、プロレスラーがタンバリン叩くんか?」
「また聞きじゃけえ、『コリア・グラフト・タンバリン』の意味、いうか、英語表現は分らんし、ひょっとしたら、『コリアン・クラフト・タンバリン』云うたんかもしれんとは思うんじゃけど、問題は、そこじゃないんよ。『ルー・テーズ』が、『コリア・グラフト・タンバリン』で何を云いたかったか、いうことなんよ」
「問題は、そこにもどこにもあらへん思うんやがな」
「プロレスは、ただの格闘技と違うて、『見せる』要素があるし、殺し合いじゃあないけえ、俗にいわれるような『八百長』じゃあないんじゃが、相手の技、動きに合せた動きをとるんよ。相手の技を受けてみせる部分があるんよ。例えば、ロープに飛ばされると、はねかえってきて、ショルダー・スルーで投げられることもある訳よおね」
「何か知らへんが、興味ないさかい、アンサンの説明、スルーするで」
「『ルー・テーズ』の時代でも、こうような部分はあったはずなんじゃが、彼が敢て、『今のプロレスは“コリア・グラフト・タンバリン”だよ』と云うたんは、『それ』が度を超しとる、もしくは、『それ』が下手過ぎるで、と云いたかったんじゃあないかあ、と思うんよ」
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「(アイツ、こっちが話をスルーするって云ってるのに、勝手に喋り続けやがる)」
と、ビエール・トンミー氏は、今更ながらに友人のエヴァンジェリスト氏に呆れ、その友人からののiMessageが映るiPhone 14Proの画面から視線を外し、部屋の壁を見るでもなく凝視めた。
(続く)
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