「(だけど、ボクは、『小心もん』だからこそ、緻密なんだ。仕事をしていた時も、家で何か高価なものを買う時でも、緻密な計算をして臨んできたから、失敗なく、無事に過ごせてきたんだ)」
と思うビエール・トンミー氏の、部屋の鏡の中に映った像は、少しく胸を反り返らせた。
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「いやの、アンタが、『眞一』のことを『ショーケン』みたいに云うたらどうかのお、思うたんよ」
「はあ?なんで、『ショーケン』が出てくんのや?」
「『ショーケン』いうても、『證券』じゃあないけえね」
「『ショーケン』のことを『證券』とは思うとらへん。『萩原健一』のことやろ。ゲーノー界に疎いワテでも、そんくらい分るで」
「ほいじゃったら、『萩原健一』がなんで、『ショーケン』なんか、知っとるん?」
「そりゃ、『ケン』は、『健一』の『ケン』やな。で、『ショー』は、『萩』からきとるんやろ?『萩』は、『シュウ』とも読むし、『ショウ』と読む場合もあるみたいやからな」
「アンタ、さすがじゃねえ。変態で、痴的レベルも高いが、やっぱり知的レベルも高いのお。でものお、そうじゃあないみたいなんよ。『萩原健一』は、グループ・サウンズじゃったじゃろ?」
「ああ、『ザ・タイガース』でも『ブルーコメッツ』でものうて、なんちゅう名前やったか…」
「『てんぷくトリオ』じゃないけえね」
「アホンダラ!誰が、『萩原健一』が『てんぷくトリオ』におったあ、思うねん!『てんぷくトリオ』は、グループ・サウンズやのうてお笑いのトリオやないか」
「アンタ、ゲーノー界詳しゅうないのに、よう知っとったのお」
「『三波伸介』なんかは、テレビで見とったさかいな。アンタのボケには引っ掛からへんで」
「そうなんよ、『萩原健一』がおったグループ・サウンズは、『てんぷくトリオ』じゃのうて、『ザ・テンプターズ』なんよ」
「『テンプ』まで同じだけやないか、相変らずクダランで」
「『萩原健一』の仲間内の番長が、『憲(ケン)』いう名前で、その弟分みたいに見られとったけえ、『ショーケン』なんじゃと」
「ワテには、どうでもエエ情報や」
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「(グループ・サウンズは、懐かしいけど、グループ・サウンズに熱狂していた世代は、ボクより少し上の世代だ)」
と思いながらも、ビエール・トンミー氏は、ミニタリー・ルックでステージ上で熱唱する若者たちのグループを、思春期を前にした頃の、まだ大きめの学生服を着た自身と共に、思い出していた。
(続く)
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