2015年7月19日日曜日

【終焉】さらば、スナイパー!さらば、怪人たちよ!




「アオニヨシよ、さすがだな。益田市の柿本神社の階段で鍛えた足は伊達ではなかったな」

人間鹿こと、アオニヨシ君は、エヴァンジェリスト氏の命を受け、ビエール・トンミー氏を窮地から救ったのであった。

全身黒っぽい服を着た若い女性に、渋谷丸山町のソコに連れ込まれようとしていたところを救ったのだ。


全身黒っぽい服を着た若い女性の魔力に射抜かれ、「意識」を失っていたビエール・トンミー氏を我に返らせたのであった。

「鹿し、ボクは何をしたのですか?」

エヴァンジェリスト氏に訊いた。そう、アオニヨシ君は、自分が何をしたのか理解してはいなかったのだ。

「アレは何だったのですか?渋谷丸山町のソコの入り口にボクが取付けたものは」
「ああ、あれか。まあ、一種のプラズマ・アクチュエータのようなもの、と思っておればいいであろう」
「プラズマ・アク、アク….」
「アクチュエータだ。プラズマ・アクチュエータも知らんのか、理系大学出身のくせに。最近までJAXAにいらした藤井孝蔵先生の研究で有名ではないか」
「で、そのプラズマ・アクチュエータは何をするのですか?」
「風をコントロールできるのだ。今回のプラズマ・アクチュエータのようなものでは、試しに人をコントロールさせてみたが、上手くいったようだな」
「人をコントロールするなんて、アナタは恐ろしい人だ」
「友を救う為だ。褒美に、今度、益田市に行ったら、居酒屋の銘店『田吾作』で烏賊刺しでもご馳走してやろう」
「えっ、益田に行くんですか?」
「いや、松江に行く用はあるが、益田には用はない」



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一方、打ち拉がれて戻って来た全身黒っぽい服を着た若い女性に、意外にも怪人2号は優しい声をかけた。

「仕方ない。お前は、エロ仙人、ビエール・トンミーには勝ったのだ。見事、奴の心を射抜いたのだ。しかし……」

怪人2号は歯ぎしりした。

「…しかし、ビエール・トンミーにはエヴァンジェリスト氏という友がいた。そして、エヴァンジェリスト氏は只者ではなかったのだ。夫人とチュムチュムしているのか、という問いに、手越君風に『してないッスね、残念ながら』と軽薄に答えてはいるが、石原プロの救世主となると噂される人物なのだ。我々には太刀打ちできない相手なのだ





全身黒っぽい服を着た若い女性は、エヴァンジェリスト氏の美貌を浮かべていた。そして、「爺さん(エロ仙人)の友だちの方ならひょっとして、っていうことがあるかもしれないけど」と云ったこともあったことを思い出した。




「もういい」

怪人2号が、夢想にふけり始めた全身黒っぽい服を着た若い女性に声をかけた。

「お前は今後は、スナイパーを辞め、鹿と戯れる生活でもおくるが良かろう」


こうして、美人スナイパーの引退と共に、『プロの旅人』は、長かった「怪人」シリーズの終焉を迎えたようであった。


全身黒っぽい服を着た若い女性が、鹿と戯れる生活をおくる、という意味が不明ではあったが。そもそも、その言葉に意味があるのか自体、不明であった。








2015年7月12日日曜日

【円山町事件簿】鹿はそこにいた…………【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】




エヴァンジェリスト氏の懸念は杞憂ではなかった。


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その日、ビエール・トンミー氏は再び、あのエーデルワイス(コーヒー)を飲ませてくれるあの喫茶店にいた。今回は、一人であった。散歩の途中だ。

エーデルワイスを飲みながら、左手の甲を見ていた。そして、口元にアルカイックスマイルを浮かべた。

「せんせえ……」

まるで、小学校の児童のように云った。

せんせえ(●●●子講師)の唾が左手の甲につき、しかし、それと知らぬ間に、その手を口に当てたのだ。間接キッスだ!




本当に小学生並みの奴だ。還暦の爺さんなのに。

しかし、その時であった。

黒い影のようなものが、ビエール・トンミー氏の横を通った。芳しい匂いがした。

ビエール・トンミー氏は「影」の方を見た。

全身黒っぽい服を着た若い女性であった。女性は、モナリザの微笑を浮かべた………




その瞬間から、ビエール・トンミー氏は意識を失くしていた。いや、気を失ったのではなく、起きてはいたのだが、その後(モナリザの微笑を見た瞬間から)、自分がどうしたのか、どのようにして渋谷に、円山町に来たのか、記憶を失くしていたのだ。

いや、その時もまだ、ビエール・トンミー氏は「意識」を取り戻していた訳ではなかった。全身黒っぽい服を着た若い女性と腕を組んで円山町を歩いていたその時も。

ビエール・トンミー氏は知らなかったのだ。

全身黒っぽい服を着たその若い女性は、スナイパーであったのだ。怪人2号の刺客である。

「狙った獲物は絶対に逃さないのよ。アタシって、百発百中なのよ」

と豪語する名うてのスナイパーであった。

腕を組む二人は、いよいよソコに入ろうとした。しかし-





ソコに入ろうとし、門を潜った瞬間、ビエール・トンミー氏は何かに弾かれたかのように、全身黒っぽい服を着た若い女性と組む腕を突き放し、彼女から離れた。

雷に打たれたような、といった表現が妥当かもしれない。ビエール・トンミー氏は「意識」を取り戻した。

「き、き、君は一体、何者だ!」
「な、な、何よ、爺さんこそ!アタシに変なことをしようとして!」
「えっ!?う、う、嘘だ。ボクには、せんせえという存在があるのだ。いや、妻がいるのだ」
「このお、変態!」
「ウオー!」

変態と呼ばれ、ビエール・トンミー氏は叫び声を上げ、その場から全速力で立ち去って行った。

「何が起きたのよお。あと一歩だったのに」

その瞬間、門の影から何か動物のようなものが走り去るのを見た。

「ええっ!?何、何、何?...........まるで、鹿のような…….」

そう、それは鹿であった。いや、正確には人間鹿であったのだ。

そして、人間鹿と云えば、ご存じの通り、そうカレであった





一体、円山町で今、何が起きたのか?そして、カレ(人間鹿)は何故、そこにいたのか?そこにいて何をしたのであろうか?

全身黒っぽい服を着たその若い女性は、途方に暮れ、そこに立ちすくんだままであった。







2015年7月2日木曜日

【マダムとチュムチュム】「してないッスね、残念ながら」



「してないッスね、残念ながら」

何も訊いていないのに、勝手にエヴァンジェリスト氏が答えてきた。

「いや、何も訊いてないですよ」
「ハハハ(笑)。いや、別にッスね」
「だ・か・ら、何も訊いていませんよ。ひょっとして、チュムチュムのことですか?手越君の真似ですか?奥様としていないんですか、チュムチュム?」
「逆にないからつまんないッスよねー」
「何が逆なんですか?....はああん。手越君と柏木由紀の場合と違って、アナタ、マダムと本当にチュムチュムしていないんですね、最近?」
「……ま、ボクがペラペラしゃべるのもあれなんで、事務所に聞いて頂ければ。申し訳ないッス」


と、後ろ手に手を振りながらエヴァンジェリスト氏は去って行った。

「事務所に訊いてくれ(通してくれ)」は、エヴァンジェリスト氏の専売特許みたいなものなので、そこだけは手越君がエヴァンジェリスト氏を真似たのであろう。

しかし、私は石原プロに訊いたりはしない。「エヴァンジェリスト氏は最近、マダム・エヴァンジェリストとチュムチュムしていないんですか?」なんてね。