「アオニヨシよ、さすがだな。益田市の柿本神社の階段で鍛えた足は伊達ではなかったな」
人間鹿こと、アオニヨシ君は、エヴァンジェリスト氏の命を受け、ビエール・トンミー氏を窮地から救ったのであった。
全身黒っぽい服を着た若い女性に、渋谷丸山町のソコに連れ込まれようとしていたところを救ったのだ。
全身黒っぽい服を着た若い女性の魔力に射抜かれ、「意識」を失っていたビエール・トンミー氏を我に返らせたのであった。
「鹿し、ボクは何をしたのですか?」
エヴァンジェリスト氏に訊いた。そう、アオニヨシ君は、自分が何をしたのか理解してはいなかったのだ。
「アレは何だったのですか?渋谷丸山町のソコの入り口にボクが取付けたものは」
「ああ、あれか。まあ、一種のプラズマ・アクチュエータのようなもの、と思っておればいいであろう」
「プラズマ・アク、アク….」
「アクチュエータだ。プラズマ・アクチュエータも知らんのか、理系大学出身のくせに。最近までJAXAにいらした藤井孝蔵先生の研究で有名ではないか」
「で、そのプラズマ・アクチュエータは何をするのですか?」
「風をコントロールできるのだ。今回のプラズマ・アクチュエータのようなものでは、試しに人をコントロールさせてみたが、上手くいったようだな」
「人をコントロールするなんて、アナタは恐ろしい人だ」
「友を救う為だ。褒美に、今度、益田市に行ったら、居酒屋の銘店『田吾作』で烏賊刺しでもご馳走してやろう」
「えっ、益田に行くんですか?」
「いや、松江に行く用はあるが、益田には用はない」
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一方、打ち拉がれて戻って来た全身黒っぽい服を着た若い女性に、意外にも怪人2号は優しい声をかけた。
「仕方ない。お前は、エロ仙人、ビエール・トンミーには勝ったのだ。見事、奴の心を射抜いたのだ。しかし……」
怪人2号は歯ぎしりした。
「…しかし、ビエール・トンミーにはエヴァンジェリスト氏という友がいた。そして、エヴァンジェリスト氏は只者ではなかったのだ。夫人とチュムチュムしているのか、という問いに、手越君風に『してないッスね、残念ながら』と軽薄に答えてはいるが、石原プロの救世主となると噂される人物なのだ。我々には太刀打ちできない相手なのだ」
全身黒っぽい服を着た若い女性は、エヴァンジェリスト氏の美貌を浮かべていた。そして、「爺さん(エロ仙人)の友だちの方ならひょっとして、っていうことがあるかもしれないけど」と云ったこともあったことを思い出した。
「もういい」
怪人2号が、夢想にふけり始めた全身黒っぽい服を着た若い女性に声をかけた。
「お前は今後は、スナイパーを辞め、鹿と戯れる生活でもおくるが良かろう」
こうして、美人スナイパーの引退と共に、『プロの旅人』は、長かった「怪人」シリーズの終焉を迎えたようであった。
全身黒っぽい服を着た若い女性が、鹿と戯れる生活をおくる、という意味が不明ではあったが。そもそも、その言葉に意味があるのか自体、不明であった。