「云わんでも分りはりますやろが、釜めしの名店『志津香』(公園店)を出て、アノ二人が向ったのは、東大寺の大仏殿でしてんね」
なんとも鼻につく関西弁である。
「にしても、大仏はん見に行くて、えらいベタなコースですわ」
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拝観料500円を二人分払い、エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性は東大寺に入った。
「アノ二人、さっきから手もつながへん。若いお嬢はんには、大仏なんてつまらんわなあ」
と、特派員にしては喋り過ぎの男の言葉に反して、連れの若い女性は何やら感慨深げであった。
「来たことあるんだ。修学旅行で、中学の」
「何!?中学の時のか?」
エヴァンジェリスト氏が反応した。
「ってことは、タッチーも一緒か?」
タッチー?気になる言葉である。タッチーって、まさかあのタッチーか?ってことは、連れの若い女性とは、ひょっとして……
そんな俗な者どもとは違い、大仏は何も云わず、じっと座っていた。
…ふと、エヴァンジェリスト氏が呟いた。
「ワシは、タカオカ派だなあ」
タカオカ派?
しかし、連れの若い女性は、初老の男の意味不明な呟きは耳にもとまらぬようであった。修学旅行を思い出しているのは明らかであった。
タカオカ派?…そうか!高岡だな。高岡の大仏だ。
「ワシは高岡の大仏の方を贔屓にしておる」
連れの若い女性は聞いていない。
「高岡の大仏も日本三大仏なんだぞ」
ブフッー。まあ、嘘ではない。高岡の大仏の前にある立て札には、確かに、高岡の大仏のことを奈良、鎌倉の大仏と共に日本三大仏と称されている、と書いてある。
「ふん」
奈良の特派員は口を挟んで来た。
「ウチんとこの大仏はんが、高岡の大仏なんぞと同格にされてはかなわんで。連れの若い女性に博学振りでも見せたいんやろけど」
エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性は、それぞれの想いを胸に抱きながら、東大寺大仏殿を後にした。
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「その後ですがな」
早く奈良を出て京都に戻ってもらわないと、特派員の怪しげな関西弁?奈良弁?に頭が痛くなりそうである。
「その後、ようやくお二人はんはデートっぽい店に入ったんでんねん」
(続く)
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