(【疑惑の旅】みすや針にしけ込んだ?(シーン2)の続きである)
「あの二人、またまた怪しい処に向いました」
お下劣な京都の特派員は、性懲りもなく、疑いの目をその二人に(エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性に)向けていた。
河原町三条の「そこ」を出た二人は、高瀬川沿いの木屋町通を南下していったらしい。
-----------------------------
河原町三条の「ミカヅキモモコ」の入ったビルの正面から見て右の通路をを抜けたそこは……….そう、別天地であった。
特派員は、木陰に隠れるようにして中庭を進んだ
お宿かと思った「ちん(亭)」は、狭い店であった。とてつもなく狭い店であった。
最初は、何の店か分らなかった。小物屋さんかと思えた。
店の中には、50歳代と20歳代かと思える母娘連れと例の二人(エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性)がおり、それでもう店に他の人が入る余地はなかった。
特派員は、入口のガラス扉越に店の中を覗き込んだ。
何やら針で店は埋め尽くされていた。よく見ると、ガラス扉に「みすや針」と書いてあった。
そこは針屋さんであったのだ。
お下劣な特派員は、その「ちん(亭)」を、アベックが(今風な言い方だとカップルが)しけ込む、隠れ家的な宿と勘違いしたようであったが、そこは有名な針屋の「みすや針」(三條本家みすや針)であったのである。
「みすや針」も知らないで、よく京都の特派員をしていられるものかと思うが、特派員の心の中では「疑惑」の方が勝っていたのであろう。
「みすや針」で、エヴァンジェリスト氏は、どうやら待ち針を買い求めたようであった。連れの若い女性へのプレゼントかと思いきや、エヴァンジェリスト氏は買った待ち針を自身のズボンのポケットにねじ込んだ。待ち針の入った箱は小さく、ズボンのポケットに入るのだ。
「そうか、マダム・エヴァンジェリストへのお土産だな。自分の疾しさを隠す為にお土産を夫人に買ったのだな」
みすや針を怪しいお宿と勘違いしたお下劣な特派員の「疑惑」は止らない。
-----------------------------
「疑惑」に満ちた特派員の心は、新たな「疑惑」に向った。
「木屋町通を歩くなんて怪しいったら、ありゃしませんよ」
木屋町通は風俗街なのである。
しかし、特派員は分っていなかった。木屋町通は風俗街であり、エヴァンジェリスト氏が一人で夜、そこを歩いているのであれば確かに怪しいと云えるが、まだ午後4時頃であり、しかも女性を連れてその通りに入ったのだ。
木屋町通の歩道は狭く、エヴァンジェリスト氏と若い女性とは横に並ぶこともなく、縦列になって、もくもくと木屋町通を南下して行き、四条通に出ると左折し、四条大橋に出た。
四条大橋から鴨川を見て、エヴァンジェリスト氏は深呼吸をした。
そして、おもむろに首を回し、「それ」をみてため息をついた。
「ふうぅ…….」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿