(【疑惑の旅】八坂神社は縁結びの神(シーン5)の続きである)
八坂神社から再び四条大橋方面に向ったエヴァンジェリスト氏は、連れの若い女性の存在を忘れたかのように呟いた。
「水曜日は定休日だったんだ」
いらついた連れの若い女性が訊いた。
「どこで食べるのぉ?」
「北店にしよう」
京都の特派員は、「北店」と聞いて、さすがにエヴァンジェリストうじが行こうとしている店を理解した。
「松葉」であった。「総本家にしんそば」の「松葉」である。
京都四條南座の隣と云うか、一角にあるというか、文字通り、「にしんそば」の元祖の蕎麦屋さんである。
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「『にしんそば』なら、『古ばやし』も美味いがな」
「古ばやし」と云われても、京都の特派員も何ことか分らず、また、連れの若い女性も分らなかった。
「チッ、要するに何処に行くの?」
「『松葉』だ。蕎麦屋だ。いいか、蕎麦屋でも?」
連れの若い女性の物言いも無礼だが、エヴァンジェリスト氏の口のきき方も偉そうだ。
「本店はお休みのようだから、北店に行くがいいか?」
「松葉」は、本店は水曜日が定休日なのである。その日は、9月12日(2012年)、水曜日であった。
しかし、四条通を挟んで本店の向かい側を少し道を入ったところに北店があり、そこの定休日は本店とは違っていたはずであることをエヴァンジェリスト氏は承知していたのである。
エヴァンジェリスト氏の見通し通り、「松葉」北店は営業していた。
「松葉」は、「鴨なんばんそば」も美味いが、エヴァンジェリスト氏はその日は、一番の定番である「にしんそば」(1200円)を注文した。
連れの若い女性は、まだ「にしんそば」や「鴨なんばんそば」なるものも知らぬ歳であるからなのか、「天ぷらそば」(1350円)を注文した。
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「なんだ、『松葉』で食事するだけかあ」
拍子抜けした京都の特派員であった。縁結びの神を祀る八坂神社の後、「今度は、どこにしけ込むんだ」と妙な「期待」を抱いていたのである。
しかし、「松葉」を出たエヴァンジェリスト氏と連れの若い女性は、河原町の」交差点に向かい、地下の阪急電車に乗った。
「『にしんそば』は、『古ばやし』も美味いが、やはり『松葉』は美味いなあ」
とエヴァンジェリスト氏は、電車の中で満悦な表情で再び、「古ばやし」の名前を出した。
京都の特派員は知らないようなので、解説すると、「古ばやし」は信州は松本駅の「お城口」を出て、駅を背中に左手に少し行ったところにある蕎麦屋さんである。
そこは「古ばやし」の駅前店である。
『古ばやし』の「にしんそば」は、エヴァンジェリスト氏の云う通り、確かに美味いのである。
しかし、そんなことに興味はない京都の特派員は、二人を追った。
エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性は、阪急電車を一駅行った「烏丸」駅でおり、烏丸通を南下して行った。
「いよいよ本当に『しけ込むんだな』。ヒヒヒ」
こんな奴を特派員にした自分を私は少々後悔した。
(続く)
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