(【疑惑の旅】「最後のホテル」「最後の朝食」(シーン8)の続きである)
そこは、魚釣島でも釣魚島でも釣魚台でもない。そこは、尖閣諸島ではないのだ。
しかし……..
「タイアンクワイライラ」
等と「彼ら」は云っているように、二人には聞こえた。
「彼ら」は、中国人である。中華民国から来たのか、中華人民共和国から来たのか、台北から来たのか、台南から来たのか、北京から来たのか、上海から来たのかは、知らない。
いずれにせよ、彼らはソコを占拠していると云ってもいい状態であった。
…..ソコは、尖閣諸島ではなく、清水寺であった。
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その日(2012年9月13日)、「ダイワロイネットホテル京都四条烏丸」の1階にある居酒屋「杬之蔵」で朝食を済ませたエヴァンジェリスト氏と連れの若い女性が先ず、向ったのは、清水寺であったのだ。
朝食をとりながら、ミスター・シューベルトのことに思いを馳せていたエヴァンジェリスト氏が訪れたかったのは、清水寺ではなかったが、先ずは京都旅行の定番中の定番の地を訪れることにした。
「ダイワロイネットホテル京都四条烏丸」の前でひろったタクシーが着いたのは、清水寺の参道の一口であった。
坂道の参道を登りながら、エヴァンジェリスト氏はモンサンミシェル(Le Mont-Saint-Michel)を思い出していた。
清水寺の参道の、お土産に挟まれた坂道の感じは確かに、モンサンミシェルのGrande Rueを彷彿させなくはない。
しかし、参道を抜けたところにある仁王門の階段を登ろうとして、そこが決してモンサンミシェル、フランスではないことに気付かされた。
更に云うと、そこは日本でもないのではないかと錯覚するところであったのだ。
「タイアンクワイライラ」
等と「彼ら」は云っているように、エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性には聞こえた。
そう、仁王門の階段は、中国人観光客の一団に(いや二団であったかもしれない)占拠されていたのだ。
階段に並び、記念写真を摂っているのであった。
「ホーリーコーキイネン」
何を云っているのかは分らなかったが、猛烈に騒いでいた(彼らからすると、猛烈に楽しんでいた、ということになるのであろうが)。
「尖閣でもあるまいしなあ」
というエヴァンジェリスト氏の呟きに耳を貸さず、連れの若い女性は
「チッ」
と舌を鳴らした。
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仁王門の階段は中国人観光客の一団に占拠されていたので、横の階段から西門、三重塔、経堂、そして本堂へと二人は登っていった。
「妙なことに二人にラブラブ感がないなあ」
特派員は不満げに独りごちた。
まあ、清水寺はまさに京都観光のメッカである。中国人に一団の他に、修学旅行生達も一杯だ。
カップルも少なからずいるが、まあ、ラブラブ感を出すような場所ではなかろう。
しかし、エヴァンジェリスト氏の連れの若い女性は、本堂で待ち受けていた「出世大黒天像」を見ながら、
柄にもなくといった感じで、何やら物思いに耽っていた。
(続く)
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