【疑惑の旅】幸せと悲しみの三十三間堂(シーン11)
清水寺の参道を下り、再びタクシーに乗込み、その二人が向ったのは、美しいが他に見ることのない造形の寺院であった。
見れば分る。そう、三十三間堂(蓮華王院)である。世界で一番細長い木造建築と云われる寺院である。
「しかし、追跡する気が失せて来ました」
エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性を追う京都の特派員は、何故、職を放棄するようなこと云い出したのか?
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「あの二人、どうして三十三間堂なんかに来たんでしょうか?」
特派員は疑問を呈して来た。
「清水寺は京都観光のメッカですから行くのはまあ当然なんですが、三十三間堂ってデートスポットではないですよ。とても美しく、珍しいお寺ですが、甘い雰囲気になれるところではありません」
しかし、私にはエヴァンジェリスト氏の意向が分った。
三十三間堂は確かにデートスポットではないが、甘い雰囲気と関係ないとはいえない場所である。
京都の特派員は知らないのか?三十三間堂では、結婚式を挙げることもできるのだ。
そうだ、ジュニア先生が今年(2012年)の5月に結婚式を挙げたのが、三十三間堂なのだ。
ジュニア先生とは、覚えておいでであろうか、そう、ミスター・シューベルト・ジュニアである。ミスター・シューベルトのご子息である。
昨年(2011年)、33歳の若さでダンジューロー市の市議会議員になられた方である。
(参考:【緊急特報】ジュニア先生、結婚!……..ミスター・シューベルト感涙。)
ジュニア先生は、三十三間堂で仏式の結婚式を挙げられたのだ。
そして、ミスター・シューベルトは、父親として結婚式に参列する為、夫人と共に京都に旅行をし、礼服を着て三十三間堂に来たのだ。
ミスター・シューベルトが夫人と共に、ダイワロイネットホテル京都四条烏丸に宿泊したのは、ジュニア先生の結婚式の為であったのだ。
そのことを京都の特派員は知らないのだ。
ジュニア先生の結婚式から3ヶ月後の8月30日に天使になられたミスター・シューベルトを偲びに三十三間堂に来たのだ、エヴァンジェリスト氏は。
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所在なげな連れの若い女性のことも構わず、三十三間堂の庭の砂利を踏みしめながら、そして、堂内に幾体も連なる仏像を惚けたように見ながら、エヴァンジェリスト氏は、その庭で新郎新婦を中心に家族勢揃いで撮られた写真を思い出していたのであろう。
ミスター・シューベルトからその写真を見せてもらっていたのだ。
やや強ばった表情ながら、幸せなミスター・シューベルトの不器用な笑顔を思い出すのであったろう。
そんなエヴァンジェリスト氏の感傷を知らぬ京都の特派員が、エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性の次の行動をリポートして来た。
「あの二人、京都駅に行き、近鉄特急に乗りました」
(続く)
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