首都圏の郊外のある駅に怪人が現れた。
怪人は、レーバン風のサングランスをかけていた。白いマスクも着用している。更に、妙な形の帽子まで被っている。
怪人は、駅前の商業ビルの別館に向った。
すれ違う人総てが振り返った。いや、すれ違わない人までもが怪人に視線を送った。
しかし、怪人はそれらの視線に気付かず、咳をしながら歩いた。時々、マスクの下部を開け、街路樹の根元に痰を吐いた。
商業ビルに入り、更にそこから別館に向い、エレベーターで5階に上った。
初めて来たところらしく、エレベーーターを降りた怪人は不安げに左右を見た。
右手には大きなホールがあったが、そちらには向わず、左手に向った。
カルチャー・スクールであった。
どうやら、ビエール・トンミー氏が通おうとしているのと同じカルチャー・スクールだった。
看板には、●●●子先生の名前があった。同じ講座を受講するようでもあった。
ドアを開け、怪人は教室に入った。
中にはオジサンとオバサンしかいなかった。
怪人は、オバサン達が固まっていたすぐ後ろの目立たない端の方の席に座った。サングラスもマスクも帽子も取らない。
講義が始まった。
怪人の講師を見る目が尋常ではなかった。サングラスをかけていても分る程に。
時々、咳き込んだが、屋外にいた時より控え目であった。それは、講義の邪魔をしない為のようでもあり、何だか目立たないようにする為のようでもあった。
講義が始まり、程なく、教室は消灯された。講師がパワーポイントの画面をスクリーンに映すからである。
怪人は目立たぬようしている風であったが、鼻息が荒かった。体調が悪く、微熱があるようにも見えたが、何か興奮しているようにも見えた。
2時間の講義が終ると、怪人はそそくさと教室を出て行った。
誰にも自分の存在を悟られないように、といった風であったが、申し上げるまでもなく、その存在は目立っていた。
怪人は一体、何者であるのか?
そういえば、同じ講義を受講するはずであったビエール・トンミー氏の姿が見えなかったことも気になる。体調でも悪いのであろうか。お気に入りの●●●子先生の授業をあれほど楽しみにしていたのに。
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