2015年1月11日日曜日

【ドルト氏のスター大作戦】ワタシのフレグランス作戦




「何だか、少し匂いませんか?香水つけましたか?」

新年早々、アオニヨシ君が訝しげそうな表情を浮かべ、エヴァンジェリスト氏に訊いた。

「ワシではない」
「そりゃそうですよね」
「何故だ!?」
「アナタには加齢臭はあっても華麗な匂いがある訳ありませんよね」
「なにい!」

そんな親子のような会話を聞きながら、ドルト氏は微笑んだ。

『ワタシだ。その香水の主はワタシなんだ』

誰もそのドルト氏の心の声を知らない。


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その朝、家を出る際に、妻(マダム・ドルト)が訊いてきた。

「あら、アナタ、香水つけるようになったの?」

やはり気づいたか。

「いつ買ったのよ?」

昨年(2014年)、広島に出張した際に、『そごう』で買っておいたのだ。

「どうして香水つけるの?」

まあ、そう質問してくることは予期してはいた。答も用意してあった。

「まあ、いいけれど。アナタもそろそろ加齢臭がしてくる年頃だし、身だしなみね」

勝手に理解してくれた。


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通勤電車で早速、『効果』が出た。

混み合った車内で側に立ったご婦人が振り向き、なまめかしい目でこちらを見上げてきた。

『来た、来た、来たあ!』

と思ったが、どう見ても自分より年上であったので、ナニもしなかった。

若作りであったので、振り向くまでは少しは『期待』があったが、『アイテ』をするには少し辛そうであったのだ。


―――――――


「でも、いい匂いですよね。ほんのりですけどね」

アオニヨシ君はさすが『鹿』だけのことはある。嗅覚が優れている。

「男性用の香水ですよね」

まあ、間違いではないが、香水という程、強いものではない。オードトワレだ。

『広島そごう』の新館2階の『BVLGARI』ショップで買ったのだ。『BVLGARI pour homme』だ。

「そんないい匂いがするかあ?」

年寄りのエヴァンジェリスト氏には分らないようだ。嗅覚も衰えているのだろう。

「しかし、男が香水なんかつけてどうするつもりだ。ビエール(トンミー氏)でもあるまいし、『フレグランス作戦』を使う奴がこの会社にいるのか?」

ここにいるのだ。ワタシだ。どうして、気づかないのだ?

まあ、ワタシはどう見ても、ビエール・トンミー氏にように、『フレグランス作戦』を使うおちゃらけた存在ではないのだから仕方はない。


―――――――


社内を少し歩いてみた。

やはり『効果』はあった。すれ違う若い女性社員は全員、振り向くのだ。これまでにはないことだ。

少なくとも、ここ10年間にはなかったことだ。もっと若い頃には、フレグランスに頼るまでもなく、女性にモテタものだ。

妻もその一人だ。妻は男性たちの憧れの的であったが、その憧れの的の憧れがワタシであったのだ。

しかし、こんなにモテルのは久しぶりだ。しかも、フレグランス効果だけのことではないのだ。

振り向いた女性たちの視線が普通ではないのだ。匂いに惑わされただけなら、その匂いの主がオジサンと解り、ガッカリした表情を見せるはずだが、振り向いた後、はっとした表情を浮かべるのだ。

40歳を超え、自身知らぬ間にオジサン化していたのだ。ツクリはいいのに、オジサン化していた為に、徐々に若い女性に振り向くこともされなくなっていたのだ。

しかし、『BVLGARI pour homme』が変えてくれたのだ。

『BVLGARI pour homme』は、ただ女性たちを振り向かせただけではなく、ワタシ自身の心の持ちようも変えてくれたのだ。自信を取り戻させてくれたのだ(香川真司も『BVLGARI pour homme』をつけてみたらどうだろうか)。


―――――――


しかし、少し怖くなってきた。余りの『効果』に怖さを感じるようになったのだ。

ワタシは妻を愛している。浮気をするつもりはない。ただ少し試してみたかっただけなのだ。

が、このままでは自分さえその気になれば、ナニもできてしまいそうなのだ。

奥さんに見向きもされなくなったビエール・トンミー氏とは違うのだ。妻もワタシを愛しているし、歳の割に『回数』もある方だと思う。

まあ、妻にさとられないなら、1回や2回、『そういうこと』があってもいいかとは思う。

しかし、この『効果』を見ると、『そういうこと』になった若い女性の方が、ワタシのことを忘れられなくなりそうなのだ。


―――――――


…….と、夢想していると、ポンポンと肩を叩かれた。

スモーキン・パパ・カニー氏であった。

「ねええ、今晩、飲みに行かない?」

ぎょっとした。スモーキン・パパ・カニー氏は毎日のように誰かを誘い、飲みに行っている。

ワタシも随分、誘われたものだ。しかし、1回でこりごりであった。どうこりごりであったかは申さないが、もう結構であったし、それを察したのか、スモーキン・パパ・カニー氏も徐々にワタシを誘わなくなった。

だから、久しぶりのお誘いであった。しかも、「ねええ」という言葉とその目線が尋常ではなかったのだ。手もワタシの肩に置いたままなのだ

『ま、ま、まさか!』

『そんなこと』はあるまいと思ったが、どうも『そんなこと』のようなのだ。

そうなのだ。『フレグランス効果』がスモーキン・パパ・カニー氏にまで及んだのだ。

スモーキン・パパ・カニー氏に『そっちの気』があるとは知らなかった。

元々は、『そっちの気』はないのかもしれないが、フレグランスがその『気』を呼び起こさせたのかもしれない。

「す、す、すみません。今は、オシンコ・プロジェクトで忙しいので」

慌てて肩の手を払いのけ、席を立った。

今、三連休明けも『BVLGARI pour homme』をつけ続けるべきかどうか思案中である。









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