2014年12月7日日曜日

【妻の疑念】ネロは何を見て微笑んだのか、夫は何を見て微笑むのか….【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】



「あの人ったら変だわ、今更、パトラッシュに興味を持つなんて…」

マダム・トンミーはお皿を洗いながら呟いた。

「アタシが小学5年から6年にかけて放送されたのよねえ、確か」

どうやら『フランダースの犬』のことらしい。

「感動したものだわ。ネロとパトラッシュが天使に抱えられ天に昇るところ、泣いちゃった…」

アニメの『フランダースの犬』のことだ(感動のラストシーンは、原作とは異なっているらしい)。

「でも、その頃、あの人は二十歳頃…ネロとパトラッシュを見ていたのかしら?」

そうだ、あの人、ビエール・トンミー氏は、夫人のマダム・トンミーよりも10歳年上なのだ。


「その頃は、オンナにうつつを抜かしていたって聞いたことがあるけど」

そうそう、その頃だけのことではないが、確かに二十歳頃のビエール・トンミー氏の頭の中にはオンナの子のことしかなかった。

「ネロが最後に見た絵、『キリストの昇架』について勉強したいなんて、あの人にそんな高尚な趣味あったかしら」

そんな高尚な趣味を持っている訳がない。

「まあ、いいわ。来年もオープン・カレッジに行ってもらった方が」


ビエール・トンミー氏は今度は、『キリストの昇架』を描いた画家について勉強すると云い出したのだ。

「毎日毎日、ウチにいられても鬱陶しいもの」

マダムは気付いていないのだ。ネロはキリストの昇架』を見て微笑みながら昇天したが、夫が何を見て微笑み、『昇天』しようとしているのか。







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