2014年12月2日火曜日

【選択】JAXAか石原プロか



「いやあ、困ったなあ」

困ったと云いながらも、エヴァンジェリスト氏は嬉しそうである。面倒くさいが、付き合ってやるか。

「一体、どうしたんですか?」
「いやな、これは絶対秘密だぞ、いいか」
「大袈裟ですね」
「まあ、国家機密と云ってもいいことだからな」
「ほおほ、それは大変ですね」

どうせ、くだらないことなのだ。

「ある筋の知合いから打診されたんだ」
「何をですか?」
「ジャクサだ」
「えっ?ジャック・ブリスコ?」
「ふざけるな!元NWA世界チャンピオンではない」
「ジャック・ブリスコは、全米カレッジレスリング選手権で優勝もしているんですよ」
「ああ、知っている。アメリカのカレッジレスリングは、普通のアマレスとは違って、総合格闘技向きとも云われるんだぞ」
「だから、地味ですが、強かったんです、ジャック・ブリスコは」
「しかし、アイツは、『全日』に遠征した際に、一週間だけジャイアント馬場にNWAのチャンピオンをプレゼントしたのが気に喰わん。まあ、『政治』上、仕方なかったのであろうが」
「で、ジャック・ブリスコに何か云われたんですか?」
「君はワシをからかっているのか?ジャック・ブリスコは、2010年に亡くなっているんだぞ」

ちっ、ばれたか。ちょっと揶揄ってみただけだ。

「JAXAだ」
「ああ、JAXAですね。ロケットの」
「宇宙航空研究開発機構だ」
「JAXAがどうしたんですか?誰に何を打診されたんですか?」
「いや、誰かは云えん。それは云えんが、JAXA入りを打診されたのだ
「ええーっ!JAXA入りですか?アナタ、宇宙飛行士にでもなるんですか?」

ああ、また妄想だ。しかし、宇宙飛行士になる、というのは、ちょっと行き過ぎだろう。

「違う、違う。『はやぶさ2』だ」
「えっ!?『はやぶさ2』って、この前の(2014年の)11月30日に予定していた打上げを明日(12月3日)の延期したっていう、あの『はやぶさ2』ですか」
「そうだ、その『はやぶさ2』だ」
「アナタ、『はやぶさ2』になるんですか?」
「タワケ!!!問題は、『はやぶさ2』の打上げ延期理由だ」
「雷を誘発する氷結層がある雲に覆われると見込れたからではないですか?」
「ほお、詳しいな。その通りだ。だから、カレは打診してきたんだ」
「カレって誰ですか?」
「だから、それは云えん、と云っただろ。国家機密と云ってもいいことだからな」
「では、そのカレは、アナタにJAXA入りして何をして欲しいんですか?」
「そこだ。そこなんだ。カレは、知っているのだ。ワシが『空を割った』ことがあるのを」
「ま、ま、まさか、あの時のことですか…」
「そう、その時のことだ」

そうなのだ。私は信じないようにしているが、エヴァンジェリスト氏は『空を割った』ことがあるのだ。

2012年2月1日の庄内空港でのことだ。

その日、暴風雪でANA893便が危うく欠航になるところを、エヴァンジェリスト氏が、「視界を開けさせてみせようぞ!」と云って念じたところ、程なくして(2、3分もしない内に)視界が開け、ANA893便は欠航を免れたのであった。


「カレは、ワシに云うのだ。『ロケットは、天候が悪いと、特に雷雲があると、いざという時にブースター分離する際の爆薬に落雷で引火するとマズイんです。だから、天候を操れる人が必要なんです』とな」
「なるほど…」

中途半端だが専門的そうで、何だか真実味がなくはない。

「で、どうするんですか?」
「だから、困っているんだ」
「だから、って?天候を操れはしないからですか?」
「なんだとお!失敬な!まき子夫人のことだ。舘(ひろし)さんのことだ」

ああ、また石原プロか。

「アナタが石原プロをなんとかしないと、このままでは孤軍奮闘の館さんが倒れてしまいかねないんですよね」
「そうなのだ。しかし、『はやぶさ2』のことも放っておく訳にはいかないからな」
「では、JAXAと石原プロを兼任すればいいではないですか」
「ばっかもーん!JAXAも石原プロも、兼任で務まるほど甘くはない!」
「では、どうするんですか?」
「ハムレットはこういう心境であったのであろうなあ。『生か死か』、いやJAXAか石原プロか』、それが問題だ

いやはや、相変らず目出度い人だ。







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