2014年10月13日月曜日

「オッカーノウーエ…」….【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】




「アータ、どうしたの?朝っぱらから鼻ウタ唄うなんて」

マダム・トンミーがビエール・トンミー氏に訊ねた。

2014年10月13日、ビエール・トンミー氏は、台風が近づき曇天となった空を窓から見上げ、「オッカーノウーエ…」と唄っていたのだ。

若い頃、夫がアグネス・チャンに入れあげていたことは聞いたことがある。しかし、マダム・トンミーは、嫉妬はしなかった。相手は芸能人であるし(要は、現実的な存在ではないし)、自分の方が若くて美しいという自信があったのだ

実際、結婚してからの夫は、ヘンタイ混じりのスケベエではあったが、妻を裏切ることはしなかった(と、マダムは信じている)。アグネス・チャンの曲を聴くこともしなかった。勿論、アグネス・チャンの曲を唄うこともなかった。

しかし、今朝、夫は、

「オッカーノウーエ…」

と唄っていたのだ。

申すまでもない。アグネス・チャンの「ひなげしの花」である。

一体、夫に何が起きたのか?

嫉妬ではない。夫より1歳年下のアグネス・チャンももう、来年で還暦である。そんなおばあさんは、自分の敵ではない。自分はまだギリギリではあるが40歳台なのだ

「アータ、どうしたの?朝っぱらか鼻ウタ唄うなんて」
「いや、何でもないさ」
「アグネス・チャンでしょ?」
「ああ?ああ、そうか、そうだったね」

自分が何を唄っていたのかも分っていなかったようだ。

「アグネス・チャンも昔は可愛かったのにね。いや、君の方がもっと可愛かったよ。今もね」

それはそうだ。それは自分でも分っている。

「彼女もすっかり文化人になってしまっちゃったね。何だか、物議を醸すようなこともよく云ってるしね」

夫は今はアグネス・チャンに批判的だ。安心した、いや、元々、心配なんてしていない。夫は今でも自分にゾッコンなのだ。

「……ウーラナウノ、アーノヒトノ、コーコロ」

ビエール・トンミー氏は、続けて「ひなげしの花」を鼻唄ったが、もうマダムが気にすることはなかった。


……しかし、マダム・トンミーは、分っていなかったのだ。

「クールコナイ、カーエラナイ、カーエルー」

と唄うビエール・トンミー氏の心には、ある別の女性があったのだ。アグネス・チャンでもない、マダム・トンミーでもない、別の女性だ。

曇天だが、今日(2014年10月13日)、その女性の存在が、ビエール・トンミー氏の心を晴れさせていたのだ。







0 件のコメント:

コメントを投稿