「その土地、買わないかい?売ってやってもいいよ」
偉そうである。売れもしない土地である。しかも、自分でそのことを云った上で「買え」と云うのである。いや、「売ってやってもいい」と云うのである。烏滸がましいとはこのことだ。
「いや、ボクは3年前に家を買ったばかりなので」
と云うデカクナイノニデカ氏に、顔を険しくしたエヴァンジェリスト氏は云う。
「なにぃ!キミは家持ちかあ!?キミはもっといい奴かと思っていたが、見損なったな」
家持ち(マンション持ち)は大嫌いなのである。しかし、見損なうことはあるまい。
「ボクもマンションがあるので」
「うぬぼれ営業」氏が云った。またエヴァンジェリスト氏の家持ち(マンション持ち)嫌い話が始ったな、と思いながら、面倒臭そうに云った。
「あのマンションには怨霊が住んでいるじゃあないか」
前妻と住んでいたマンションであり、前妻とそこで色々と揉めた経緯から、前妻の怨霊(生き霊)が居着いているというのだ。
失礼な話である。今は、そのマンションには現在の「うぬぼれ営業」夫人であるカンサイデモナイ・トーカイデモナイ・チュラデスさんと平和に暮らしているのだ。
そう反論すればいいのに、そこは気配り帝王の「うぬぼれ営業」氏である。こう云った。
「まあ、確かに怨霊がいるかもしれないですね。各部屋の四隅にお清めの塩を置いてありますから」
「だったら、等価交換しよう」
「等価、ですか?」
「嫌か?」
「嫌……いや、まあ、その、コチラは横浜市ですから」
「音戸町波多見[はたみ]は、まあ田舎ではある。.....が、音戸町からは、城みちるが出ているんだ」
「へええ」
「一旦、引退した後、地元広島で芸能活動を再開した頃であったか、地元広島のテレビで衝撃的なCMを見た」
城みちるのことなんか、どうでもいいのだが、そうも云えず、「うぬぼれ営業」氏とデカクナイノニデカ氏は黙って聞いていた。
「城みちるが、『なだや』の社長と一緒に出て来て、『ボクはイルカに乗った少年、おじさんはイリコに乗った中年』と云っていたのだ。『なだや』の安芸いりこのCMだ」
「ふへへへ」
「うぬぼれ営業」氏は愛想笑いをした。城みちるのことは知らなくはないが、イルカに乗ろうがイリコに乗ろうが知ったことではない、というのが本音なのだ。
「確か、『ひょうきん族』にも出てましたよね?」
少しは反応しないと悪かろう、とデカクナイノニデカ氏も重そうに口を開いた。
「そうだ、そうだ。『風雲!たけし城』にも出ていたぞ」
「ああ」
「その音戸町だぞ」
「いや、そう云われても......」
余計なことを云うのではなかった、とデカクナイノニデカ氏は後悔しているように見えた。
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