夜、9時過ぎ、事務室のドアが開いた。………項垂れたヴィトン君が入って来た。
--------------------------------
その日、夕方が過ぎ、7時を過ぎてもヴィトン君は帰社しなかった。営業先は総て都内である。広告担当(広告取り)の営業のヴィトン君はいつも、遅くとも6時、7時には帰社していた。
しかし、その日は7時を過ぎてもヴィトン君は帰社しなかった。当時はまだ携帯電話なるものはなく、会社から出先の社員に連絡をとるのは難しい時代であった。1979年であった。
その年に23歳になる男で、子どもではないとはいえ、ヴィトン君はまだ新入社員だ。会社としては、心配だ。
7時半になり、その日、訪問したはずの先の3ヶ所の企業(デザイナーの会社だ)に電話を入れた。先に訪問したはずの企業2社からは、「もう帰られましたよ」と云われた。それはそうであろう。
3ヶ所目の企業に電話をすると、こう云われた。
「ああ、ヴィトンさんね。先生とキョーカイにいらっしゃいましたよ」
「なんだ、協会(日本ファッション協会)に行ったのか」と会社の皆は一応、安心した。
「だけど、なんでアイツ、先生と協会なんかに行ったんだ?」という疑問は残ったが。
先生は、有名なファッション・デザイナーである。だから、協会(日本ファッション協会)に行かれることはあるであろう。しかし、雑誌の広告の営業であるヴィトン君が何故、先生に付いてキョーカイに行く必要があるのであろうか……まあ、デザイナーって我が儘だからなあ……ヴィトン君は甘いマスクしているから、先生(女性)に気に入られたのであろうか.......
そんな疑念を持ちながらも、「キョーカイに行った」と、所在が分ったことで取り敢えず安心したキタグニカラキタスパイデハナイ部長やカリスマ氏、イシカワケンヤさん、サカノウエさん、ピップ君達営業部の面々と共に、そこに、エヴァンジェリスト氏がいた。
若き日のエヴァンジェリスト氏である。そして、そこは「WWD」であった。
0 件のコメント:
コメントを投稿