2022年11月4日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その316]

 


「『夢の超特急』、一緒に乗ろうやあねえ」


と、少女『トシエ』は、身をクネらせながら、ビエール少年に迫った。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出しはしたものの、『浄土真宗』が『東』と『西』とに別れた事情を知らず、ビーエル少年が、元は一つの『本願寺』だった『石山本願寺』を信長が攻撃したことが原因と説明しだした。そして、その『石山本願寺』信長がなかなか攻め切れなかったのは、『毛利輝元』が『石山本願寺』に食料とか武器なんかを提供して味方したからだとも説明をしたのだ。そこで、少女『トシエ』が、『石山本願寺』にお好み焼きも差し入れしたのだろうか、と云い出し、ビエール少年はそれを否定したが、少女『トシエ』は今度は、『もみじ饅頭』を差し入れしたのだろう、と云い出しことから、話は『もみじ饅頭』という名前の謂れ(『伊藤博文』が名前のヒントを与えた)へと派生していっていた。だが、話は、『伊藤博文』が、山口県光市出身であることから、『夢の超特急』移っていったのであった。


「え?」


本能的に身の危険を察知したビエール少年は、若干、身を退けた。


「『伊藤』さん、云うん?『バド』が、あのハゲで髭を生やしとる人みたいに、総理大臣になって東京に行く時に、一緒に乗ろうやあねえ」

「え?ボクが、総理大臣に?」

「『バド』、アタマ、エエけえ、総理大臣になれるけえ」

「いやあ、そんなことは…」

「『ううん、アタマ、エエいうても、『バド』はハゲんと思うんよ。まあ、ハゲてもエエけど、でも、ヒゲは似合うと思うけえ、ウチ、『夢の超特急』に一緒に乗ったげる」




「え?どうして一緒に?」

「『伊藤』さんいう人は、総理大臣になって、『夢の超特急』に乗ったんじゃろ?そん時、奥さんも一緒だったじゃろうがねえ」

「いや、『伊藤博文』は、新幹線には乗ってないよ。だって、明治時代の人だから、まだ新幹線ってできてないからね」

「じゃけど、さっき『ひかり』に乗ったあ、云わんかったあ?」

「『光』出身って云ったんだよ」

「『光』出身いうんは、『夢の超特急』の『ひかり』から出てきたいうことなんじゃないんねえ?」

「『光』って、新幹線の『ひかり』号のことではなくって、山口県の『光』市のことなんだよ」

「ああ、臨海学校だね」


『ボッキ』少年は、言葉を挟んできた。ビエール少年の言葉を理解していたのだ。


「はああん?」

「広島の学校がよく臨海学校で行くところじゃ。聞いたことがあるけえ。『光』市の『室積』海岸っていうところじゃなかったかのお」



(続く)




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