2017年2月21日火曜日

「感染ってもいいの」【甘ーい『家族会議』】




「アナタ、今晩は『家族会議』よ」

妻の言葉に、「うぬぼれ営業」氏は背中に戦慄が走った。残業で疲れて帰宅したところなのに、自宅でも仕事の話をするのは辛い。

「晩御飯食べたら、すぐ始めるわよ」

そう、「うぬぼれ営業」氏家の『家族会議』は仕事に関する議論なのだ。妻も同じ会社で働いているが、妻は自分と違い、技術担当なので、営業の自分とは見解が異なることが多い(同じ商品の営業と技術なのだ)。

「エヴァンジェリストさんから聞いたわよ」

あの人はまた、何か余計なことを妻に云ったのだ。自分より妻との関係が長く(まあ、あくまで仕事上の関係だが)、ことある度に技術の部門に行き、自分のことを告げ口するのだ。

「ムッシュ・ムラムラ・キータのことよ」

ああ、自分が先日、インフルエンザで会社を休んでいる間に、電話をしてきた自分が担当するお客様だ。エヴァンジェリスト氏は、ムッシュ・ムラムラ・キータとは古くから面識があり、しかもほぼ同年齢で親しく、自分の代わりに電話対応してくれたのだ。

「アナタ、ムッシュ・ムラムラ・キータに云わなくてもいいことを云ったのね」

え?何のことだ?まだ晩御飯は済ませていないのに、もう『家族会議』を始めるのか?食事を済ませてからにして欲しい。

「んんん、もおう、アナタったらあ、他人に、しかもお客さんに云うことじゃないでしょ、うふん

おや?『家族会議』の雰囲気ではない。『家族会議』とは名ばかりで、議論しても結局、妻には勝てないのだ。妻は強い。自分は妻に惚れ抜いている。だから、最後は、妻に言い返すことができなくなって、『会議』は終わるのだ。

「もう、あんなこと他所で言わないでね、うふん

言葉は怒っているが、なんだかご機嫌だ。

「いいじゃあないのねえ」

はあ?

「アナタがインフルエンザなのに、アタシに感染っていないのか、って訊かれたんですって、ムッシュ・ムラムラ・キータに」

エヴァンジェリスト氏とムッシュ・ムラムラ・キータは会社の電話で何を話しているのだ。

「エヴァンジェリスト氏が、アタシたちは別室で寝ているのではないか、と云ったそうよ」

あの人は、本当に適当な人だ。自分たちのことの何を知っているというのだ。

「でも、ムッシュ・ムラムラ・キータは、アナタから『夫婦で一緒に寝ている』と聞いてるよ、って云ったそうよ」






確かにムッシュ・ムラムラ・キータにそう云ったことはある。

「だから、アタシにインフルエンザが感染ってしまうんじゃあないか、ってことだったみたいよ」

しかし、感染ってはいない。インフルエンザで寝ている間もアレをしたが(アレって、激しいアレではない)、妻に異常はない。

「構わないのにねええええ

おお、甘い、甘い云い方だ。

「いいの、感染ってもいいの、アナタのインフルエンザなら、うふん」

さ、今夜は、晩御飯抜きで、甘ーい『家族会議』をするぞ!




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