「アータ、また、変な郵便が来てたわよ」
帰宅した男は、夕飯の準備をする夫人に台所からそう声をかけられた。
「きっと、怪しいDMよ。エロ・ビデオのセールスじゃあないの?」
男が着ているのは、パジャマのようにも見えた、というか、パジャマであった。帰宅したばかりで着替えていないはずなのだから、パジャマではないのかと思われるであろうが、男は、「パジャマで外出する男」なのである。
しかし、もう2週間は洗濯をしていないので、男の体は異臭を放っていた。
『きっと、またアソコからだ』
男は、そう確信し、食卓に置かれた郵便を手に取った。
「ビエール・トンミー様」と書かれた封書である。
そして、やはり差出人は、「週刊聞醜」であった。
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「変態の科学」教祖にして『総裁』であり『会長』であり『グル』ある
ビエール・トンミー様
『緊急依頼状:変態霊インタビューをしませんか』
感銘とはこのことを云うのだと初めて知りました、先生。
先生の「回答状」程、世界の真理を教えるものはないでしょう。
ロマン・ポルノ「団地妻 昼下がりの情事」が、スコセッシ 監督の「沈黙」に繋がるとは、白川和子も、遠藤周作もスコセッシも予想だにしなかったでしょう。
先生は、世界を変える力をお持ちの方です。怪人2号や怪鹿が「変態の科学」に出家、入信を望むのも必然です。
そこで、先生にお願いがあります。
先生の教えでは、世の総ての者は変態であるそうですね。皆、自身も知らぬ内に、変態霊に取り憑かれている、と云うか、各個人の変態霊に守られているのでしたね。
先生には、その変態霊にインタビューをして頂きたいのです。
弊誌「週刊聞醜」で、「変態霊インタビュー」をして頂けませんでしょうか。先ず、第1弾として、●●●子先生の変態霊へのインタビューは如何でしょうか。
いいお返事をお待ちしています。
週刊聞醜
編集長
トビマス・トビマス 拝
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「週刊聞醜」(しゅうかん・ぶんしゅう)からの質問状に回答はしたものの、「週刊聞醜」なる週刊誌はまだ見たことはない。
書店も何店か見て回ったが、どこにも置いてなかった。店員に聞いても、
「ああ、週刊文春なら、雑誌コーナーにあるはずですが」
と勘違いされるだけであった。
コンビニにも駅の売店にも見当たらなかった。
しかし、今回もビエール・トンミー氏の手は震えた。
「ど、ど、どうして知っているのだ…..●●●子先生のことを、●●●子先生と自分とのことを、トビマス・トビマスという奴は、どうして、知っているのだ」
こんな怪しい依頼状なんて無視すればいいのだが、依頼に応じなればどうなるのか………
ビエール・トンミー氏は、鼻歌まじりで料理をする夫人に動揺を悟られないよう、台所に背を向けたまま自分に部屋に入って行った。
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