2018年7月26日木曜日

夜のセイフク[その17]



夜のセイフク[その16]の続き)



「これだよ」

ビエール・トンミー君の机の上に何か冊子のようなものが置かれた。

「はあ?」

ビエール・トンミー君は、一旦、冊子のようなものを見た後、自分の机の横に立つ人物を見上げた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「お待たせしたね」

エヴァンジェリスト君が、微笑んでいた。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、エヴァンジェリスト君に耳元で囁かれて5日後である。

「(え?.....これを待っていたのか?)」

ビエール・トンミー君は、自分が思い上がっていたことを知った。

「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」

と、(多分)自分だけがエヴァンジェリスト君にそう囁かれて、もうすっかり『何会』の共同創始者気分になっていたのであった。

そして、『何会』について、

「(そうだ、『何会』は、人々に楽しみを、喜びを与えるのだ)」

とさえ思うようになっていたのだ。

しかし、実際のところ、自分自身は、それから人々に対して楽しみを与えるも、喜びを与えるも、いや、『何』をするでもなく、『何』をできるでもなかったことを、『今』知った。

自分自身が『何』かをするではないにしても、

「これだよ」

とエヴァンジェリスト君に云われるまでは、『何』を待っているのかさえ知らなかったのだ。



しかし、『今』、ビエール・トンミー君は、自分が待っていたものを知った。

それは、『今』、ビエール・トンミー君の机の上に置かれていた。


(続く)



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