(夜のセイフク[その16]の続き)
「これだよ」
ビエール・トンミー君の机の上に何か冊子のようなものが置かれた。
「はあ?」
ビエール・トンミー君は、一旦、冊子のようなものを見た後、自分の机の横に立つ人物を見上げた。
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。
「お待たせしたね」
エヴァンジェリスト君が、微笑んでいた。
「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」
と、エヴァンジェリスト君に耳元で囁かれて5日後である。
「(え?.....これを待っていたのか?)」
ビエール・トンミー君は、自分が思い上がっていたことを知った。
「もうしばらくだからね。もう少しだけ待ってね」
と、(多分)自分だけがエヴァンジェリスト君にそう囁かれて、もうすっかり『何会』の共同創始者気分になっていたのであった。
そして、『何会』について、
「(そうだ、『何会』は、人々に楽しみを、喜びを与えるのだ)」
とさえ思うようになっていたのだ。
しかし、実際のところ、自分自身は、それから人々に対して楽しみを与えるも、喜びを与えるも、いや、『何』をするでもなく、『何』をできるでもなかったことを、『今』知った。
自分自身が『何』かをするではないにしても、
「これだよ」
とエヴァンジェリスト君に云われるまでは、『何』を待っているのかさえ知らなかったのだ。
しかし、『今』、ビエール・トンミー君は、自分が待っていたものを知った。
それは、『今』、ビエール・トンミー君の机の上に置かれていた。
(続く)
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