2018年7月6日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その141]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

リフト列の前にいた同期の女性のリフレインする言葉から逃れられぬエヴァンジェリスト氏であった。

1982年の冬、会社の同期の皆で、草津にスキーをしに来ていた。

まだ『曲がる技術』を会得していなかったエヴァンジェリスト氏は、

「エヴァさん、曲がれるよね?」

という同期の女性の言葉に、ゲレンデの『ウエ』(山だ!)に登るリフトの列から離れ、初心者コースに戻って、得意のボーゲンで、なだらかな斜面を『滑降』を繰返した。『曲がる』ことはできないままであった。

しかし、背中の方から声がした。

『曲がりたい』方にね、体をね…..」

どうやらベテランのスキーヤーが、初心者に『曲がり方』を教えているらしかった。

「(そうかあ…..ボクは、理論さえ分かればできるんだ)」

かくして、エヴァンジェリスト氏は、スキーの『曲がり方』の理論を学び、即、理論を実践に移し、なだらかな斜面を幾度もボーゲンで『滑降』し、時々、『曲がって』みせた。

「ま、あの方って素敵でなくって!」

というゲレンデの女性たちの視線をまた感じるようになった。

しかし、翌日、同期の皆は、その日も早々にゲレンデに向ったが、エヴァンジェリスト氏は独りホテルに残った。

「エヴァさん、曲がれるようになった?」

前日、リフト列の前にいた同期の女性が訊いてきた。

「ああ….」
「じゃ、今日は『ウエ』に行こう?」
「いや、私はいいよ。仕事の疲れが残っているから、今日は温泉に入って過ごすよ」

「(ボクは、知っている)」

そう、エヴァンジェリスト氏は知っていた。






「(確かに、ボクは『曲がれる』ようになった。だが、とても『ウエ』から降りて来るなんてことはできはしない)」

エヴァンジェリスト氏は、『己を見る男』であった。

「(ああ、怖いのだ)」

『ウエ』から降りて来ることが怖かった。

「(裕次郎さんは、分ってくれるはずだ)」

誤解ないように申し上げるが、その時、エヴァンジェリスト氏は石原裕次郎と面識はなかった。エヴァンジェリスト氏は、石原プロ入りするという勝手な使命感を持っていた。

「(スキーは、裕次郎さんのように上手くはないかもしれない)」

当時(1982年だ)、石原プロモーションは、テレビ・ドラマ『西部警察』でアクション街道まっしぐらであった。


「(しかし、スターは、アクション系だけではないはずだ)」

『石原軍団』に入団する若手俳優は、大型特殊自動車運転免許や小型船舶の操縦免許を持つのが当り前となることを、その時、エヴァンジェリスト氏は知らなかった。

「(こう申しては、裕次郎さんや渡さんに失礼かもしれないが….)」

失礼と思うなら、例え心の中であっても何も云わなければいい。

「(美貌では、ボクの方が優っている)」

今のエヴァンジェリスト氏しか知らない人には、傲慢としか思えない発言(心中の思い)であるが、残念ながら、若き日のエヴァンジェリスト氏を知る者には否定はできない言葉であった。


(続く)



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