2018年7月2日月曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その137]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

1982年の冬、会社の同期の皆でスキーをしに来ていた草津のスキー場のリフトに乗る列で、列のすぐ前にいた女性のその言葉を聞き、エヴァンジェリスト氏は、列を離れた。

「(『曲がれる』『曲がる』?....どういうことだ?)」

リフトの上って行く先は、山であった。当り前である。スキー場なんだから、山である。

「(『曲がれない』とどうなるのだ?あのカーブしているところで『曲がらない』と、山から飛び出すではないか!)」

恐怖に襲われたエヴァンジェリスト氏は、列を離れた。

「(ボクは、曲がったことが嫌いな男』なんだ。やっぱりスキーなんて、金持ちの道楽スポーツだ)」

列から離れて行きながら、言い訳をした。しかし、

「あああ、やっぱり貧乏人はねええ」

と思われたくはなかった。

「(貧乏人だが、ボクはスターだ。いや、スターになる人間なんだ少しはスキーでもできないと、石原プロに迷惑をかけることになる)」

根拠不明な使命感がまた鎌首をもたげてきた。






エヴァンジェリスト氏は、その日の午前中にオン・ゾーシ氏にスキーの手解きを受けた初心者コースにいた。

「いいね、いいね。エヴァさん、上手いよ」

オン・ゾーシ氏は、そう云ってくれた。

「(オン・ゾーシ君は、金持ちだが、『真っ直ぐな』人間だ)」

得意のボーゲンで、なだらかな斜面を『滑降』した。

「いいね、いいね。エヴァさん、上手いよ」

オン・ゾーシ氏の言葉が聞こえてくるような気がした。

「ま、あの方って素敵でなくって!」

というゲレンデの女性たちの視線を感じる。…….しかし、また、

「エヴァさん、曲がれるよね?」

リフト列の前にいた同期の女性の言葉がリフレインしてくる。

「(いや、違う!)」

ボーゲンの『滑降』を繰り返しながらも、同期の女性の言葉が苦しめる。

「あ、そうかあ。そうなんだあ…..」

『滑降』しながら、歯軋りをする。

「(違うんだ!怖くなんかないんだ!)」

だが、エヴァンジェリスト氏は、『己を見る男』であった。そのことが、エヴァンジェリスト氏を苦しめた。




(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿