2018年7月3日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その138]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

1982年の冬、会社の同期の皆でスキーをしに来ていた草津のスキー場で、リフトに乗る列のすぐ前にいた女性が放った言葉が、エヴァンジェリスト氏を苦しめる。

「(いや、違う!)」

ゲレンデの『ウエ』(山だ!)から降りて来るには、『曲がる技術』が必要であった。

「(『曲がれなかったら』、山から飛び出してしまう!)」

しかし、スキー初心者のエヴァンジェリスト氏にはまだ『曲がる技術』を会得していなかった。

「(違うんだ!怖くなんかないんだ!)」

と心の中で言い訳しながらも、リフトの列を離れ、初心コースに戻った。

「(貧乏人だが、ボクはスターだ。いや、スターになる人間なんだ。少しはスキーでもできないと、石原プロに迷惑をかけることになる)」

根拠不明な使命感がまた鎌首をもたげてきた。

「いいね、いいね。エヴァさん、上手いよ」

その日の午前中にエヴァンジェリスト氏にスキーの手解きをしてくれた同期のオン・ゾーシ氏の言葉を思い出し、得意のボーゲンで、なだらかな斜面を『滑降』した。

「ま、あの方って素敵でなくって!」

というゲレンデの女性たちの視線を感じる。…….しかし、また、

「エヴァさん、曲がれるよね?」

リフト列の前にいた同期の女性の言葉がリフレインしてくる。






『曲がりたい』方にね、体をね…..」

エヴァンジェリスト氏の背中の方から声がした。

「(んん?)」

曲がったことが嫌いな男』であるエヴァンジェリスト氏は、『曲がる』という言葉に敏感に反応する。

「それだけで『曲がれる』から…..」

どうやらベテランのスキーヤーが、初心者に『曲がり方』を教えているらしかった。

「(そうかあ…..)」

エヴァンジェリスト氏は、振り向かなかった(猛烈に聞き耳を立てていたが)。

「(なるほどねえ)」

そんなこと教わらなくたって知ってるよ、という態度をとった。ゲレンデの誰も、そんなこと気にすることなんてなかったが。


「(ボクは、理論さえ分かればできるんだ)」


(続く)



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