(夜のセイフク[その11]の続き)
「(フォーリーブスも敵わないだろう)」
ビエール・トンミー君は、口の中で、当時、人気絶頂であったアイドル・グループの名前を呟くと、側に立っていた同級生を見上げた。
「(エヴァ君も『相当』だ)」
1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。
「(エヴァ君も、ボクの『敵』とまではいかないとはいえ、『相当』だということは認めざるを得ない)」
牛田中学では、ビエール・トンミー君は、『敵』なしであった。
牛田中学では、下校の時、自分の10m後ろを毎日のように女子生徒たちが付けてきていることを知っていた。
「あの子、素敵じゃねえ」
女子生徒たちの声は聞こえていた。
「格好ええよねえ」
「付きおうてくれんかねえ」
「近寄ったら、ええ匂いがしたんよ」
「頭もええんじゃと」
しかし、声を掛けてくるまでのことはなかった。それは何故なのか、分っていた。
『高嶺の花』過ぎたのだ。
「(エヴァ君も、『高嶺』ではないかもしれないが、『花』がある)」
しかし、エヴァンジェリスト君は、今、こう云ったのだ。
「ミージュ君も会員になったよ」
(続く)
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