2018年7月30日月曜日

夜のセイフク[その21]






「ふふふ……」

机の横に立つもう一人の美少年の鼻の穴が更に開いた。

「(え……?これは……)」

『何会』と書かれた見すぼらしい冊子のようなものの表紙をめくった中に書かれた文字を見て、ビエール・トンミー君は、自身の美少年な顔をひょっとこ顔にしてしまっていた。



「(『月にうさぎがいた』だってええ……..)」

そうなのだ。エヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の机の上に置いた、ちぎったノートのページをホッチキス止めしたものの表紙をめくった次のページに書かれていた文字は、『月にうさぎがいた』だったのである。

「(何なんだ、これは…..?)」

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。昼休みであった。

「家に持って帰っていいよ。ゆっくり読めばいいさ」

ネイティヴな広島人であるのに広島弁を使わぬもう一人の美少年は、そう云うと、ビエール・トンミー君の席から離れて行った。



(続く)



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