2014年8月30日土曜日

「シンジに『そろそろ戻ってこい』って電話があったのかあ」




「シンジに『そろそろ戻ってこい』って電話があったのかあ」

何だか、エヴァンジェリスト氏が深刻な顔をして呟いていた。

2014年8月30日23:00時点で(日本時間だ)英国のマンチェスター・ユナイテッド所属の香川真司選手に、前の所属チームであるドイツのドルトムントのグロスクロイツが電話して来たと報道されている。

そのことを知って、エヴァンジェリスト氏は呟いたのだ。

「アナタ、香川選手のことをシンジと呼べる仲なのですか?」

訊くまでもないことであるが、訊いてみた。

「ノーコメントだ。今は、繊細な状況だからな」

繊細な状況かどうかが問題ではないのに、相変らずなおとぼけぶりだ。

「それに、アナタには『そろそろ戻ってこい』って電話はありませんよ」
「なにい?...そりゃ、ワシはグロスクロイツとは知合いではないからな。電話番号も教えてはおらん」
「そんなこと知ってます」
「それにワシはフランス語ならまだしも、ドイツ語は分らん」
「そういう問題ではないでしょ」
「では、どういう問題だというのか」
「まき子夫人ですよ」
「うっ!」
「アナタには、まき子夫人(石原まき子さん)から『そろそろ戻ってこい』なんて電話はありはしませんよ」
「うっ!うっ!うっ!.....君には一本取られたな」
「珍しく素直ですね」

石原プロ入りが、自分の幻想に過ぎないことをこうもあっさり認めるとは思わなかった。素直になられると、ちょっと可哀想であったかと思ってしまう。

「君の云う通りだ。まき子夫人はワシに『そろそろ戻ってこい』なんて云いはしない。ワシはまだ『行って』いないのだから、『戻る』ってことはないわな。『そろそろいらっしゃいよ』であろうな。まき子夫人の電話は

あ~あ。性懲りもない人だ。









ご夫人たちに気付かれた!?…【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】




「ちっ、アイツのせいだ、と毒づいていました」

ビエール・トンミー氏を追う特派員から報告が入った。

「アイツがブログにあんなことを書くからだ、と独り呟いていました」


この記事のせいで、朝のゴミ出しができなくなったというのだ。

近所の奥さんとの『交流』があることをこのブログに書いたのであった。。

グラマラスな奥さんが、ゴミ袋を置く時に前屈みになった際に、胸の谷間を見て、よからぬ妄想をしたり、朝まだ眠そうな新婚の奥さんを見て、「若いからなあ、昨晩も励んだのだろう。いいなあ。励みたいなあ(妻とはしばらく、ない)。でも、体が持つかなあ、こんな若いヒトと…ラサール石井が羨ましい」と妄想したりしていることをばらしたのだ。

どうやらそのせいで、朝のゴミ出しがし辛くなったようだ。

「トンミーさんのご主人、アタクシたちのことを見て、イヤラシイことを考えているんですって」
「そういえば、インテリっぽいけど、どこか目付きがいやらしかったわ」
「そうそう、ゴミを置く時も、必要以上に体を近づけて来ましたわ」
「アタクシたちの匂いを嗅いでたのね」
「偶然に見せかけて触ろうとしてたのかも」
「まああ、いやああねえ」

と近所の奥さん連中の噂になったらしい。


「こうなると、朝にゴミ出しが出来ず、最近は夜の内に、ゴミ出しをするようになっています。つまらなそうです」

特派員の報告をエヴァンジェリスト氏にも伝えたところ…

「なぬっ!ビエールの奴、本当は朝にゴミ出しをしていたのか。ワシを騙したな」

ビエール・トンミー氏は、私のこのブログに関して、エヴァンジェリストに以下のメールを送って来ていたそうだ。


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確かにカレにはブログに何を書いてもいいと云いました。(参照:公開!「応戦状」。「銀座NOW!」も「公開」されていた…【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】

しかし、カレのブログで「朝のゴミだしの際に、近所の奥さんがゴミ袋を置く際に前屈みになった胸の谷間を見て、よかなぬ妄想をしている下司な老人だ」
とのご指摘がありましたが、これには少々不満があります。

何しろ私はヒマを持て余している還暦前の老人ですからこんな
細かいことにこだわることを生きがいにしているので、
アナタには真実を伝えておきます。

基本的に下司な老人であることは本人も認めます。
そのうえで私の現在の仕事(=任務)について記します。

ゴミ出しも自主的に始めたものですが、ブログに指摘されたような
「妻に命じられたから始めた」という「粗大ごみ化防止」作業
の気持ちがどこかにあることを認めます。


そして、ゴミの収集日はブログで正確にご指摘された通りです。
カレ、よく調べましたね(何だかストーカーされている気分です)。
これで(曜日毎の分別で)、曜日の感覚を保つ効能があります。
これが楽しみとのご指摘も正確。

でも、ゴミ出しは朝はしていません。出すのは夜です。

ゴミ出しは、なんか「役に立っている」という充実感があるし、夜中に外に
出ることも散歩気分(短いですが)に最適です。

ただし、近所の奥さんとの交流があるとの指摘は誤り。
夜中ですので誰ともあいません。
(今度朝に出して本当の交流をしてみようかしらん。
 ご指摘の通り熟女、新妻、美人とお近づきになれるかもね。
 胸の谷間が見えたら最高!)

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ブログに書いてあることは「真実」だから私にはクレームを入れることはできず、共通の友人であるエヴァンジェリスト氏に言い訳をしようとしたのであろう。

『今度朝に出して本当の交流をしてみようかしらん』なんて、今更、噴飯ものである。

まあいいだろう、ビエールが何をどう云おうと『真実』は変らない。

それよりもビエールよ、夜に町を徘徊して怪しい老人と「職質」受けぬよう、気を付けるがよい。













2014年8月29日金曜日

戦艦「大和」→山本五十六→堀悌吉→ミスター・シューベルト(その4-最終回)





または




山本五十六が親友とし、信用した堀悌吉は、本当に優秀であり、また、正義の人であったのであろう。しかし、だからこそ疎まれ、要職から追放されたのだ

NHK BS1スペシャル「山本五十六の真実」の中で、堀悌吉が要職を追われた件(くだり)でミスター・シューベルトを思い出した。

異論はあるかもしれないが、ミスター・シューベルトは正義の人であったと、エヴァンジェリスト氏は思う。

だから、会社の中でミスター・シューベルトは本流から外されてしまったのだ。

堀悌吉が要職に就いたままであったのなら、日本は米国と開戦しなかったもしれない。



(この「大和」も、呉市の大和ミュージアムに展示してあるあの「ミニチュア」だ)

ミスター・シューベルトが本流から外されていなかったら、エヴァンジェリスト氏が再雇用になった今も携わるプロダクト/ビジネスはもっと変ったものとなっていたかもしれない。そもそもミスター・シューベルトはまだ生きていたかもしれない。(参照:アナタは妖精を見たことがあるか?!

戦前、真っ当な人であった堀悌吉のような人が外されたが、今もまたそんな時代になってしまっているように思う。

だから、エヴァンジェリスト氏の会社も、日本も駄目になっていくのであろう。


【完】






2014年8月27日水曜日

[閑話休題]戦艦「大和」→山本五十六→堀悌吉→ミスター・シューベルト(番外編)







エールには、無礼なことをしてしまいました」

エヴァンジェリスト氏に懺悔することではないとは思いつつも、エヴァンジェリスト氏がビエール・トンミー氏の友人である為、氏の前で思わず呟いてしまった(まあ、私自身、ビエール・トンミー氏の友人ではあるのだが…)


昨日、


.....こんな歴史話は、ビエール・トンミー氏よ、歴史では西洋美術史にしか興味がない君には退屈な話かね?


…と、このBlogに記してしまったのだ。

「ああ、退屈だああ、退屈だああ」と暇を持て余しているビエール・トンミー氏は、すかさずこれに反応して来た。


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西洋美術史以外に興味が無いなんて
とんでもないことで御座います。
呉の大和ミュージアムにもちゃんと行って大和の模型の大きさと正確さに
感銘を受けたところです。

山本五十六および太平洋戦争の本もよく読んでいます。
つい先週も「戦艦武蔵」の本を読んで三菱重工がいかに苦労して武蔵を
造ったか、その武蔵がいかに戦争で活躍しなかったにかを読んだばかりです。

その前は「そのとき、空母はいなかった」という本を読んで真珠湾攻撃が実は
ちまたでいわれているほど戦火が無かったばかりか、アメリカがこの攻撃のこと
を知っていたのではないかという本を読みました。

その前は「あの戦争になぜ負けたのか」という本を読みました。

ただ、堀悌吉のことは寡聞にして知りませんでした。

父上殿がマツダで働くまえに戦艦「大和」の砲台の設計を担当したというのは
すごい話ですね。

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と、メールして来たのだ。

「カレのことを、朝のゴミ出しの時、近所の奥さんがゴミ袋を置く際に前屈みになった胸の谷間を見て、よからぬ妄想をしているただの下司な老人だと勘違いしていました(参照:ゴミは不倫の匂い?…【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】)。カレが先の戦争のことにそんなに真面目に向っていたとは知りませんでした」

...と、自身の顔の前で、右手を大きく左右に振りながら、エヴァンジェリスト氏が云った。

「相変らず、キミは甘いなあ」
「はあ?」
「キミはあまちゃんだよ」
「私、能年玲奈ではありませんよ」
「キミは甘いだけではなく、馬鹿なのかねえ」
「アータこそ、相変らず無礼ですねえ」
「いいか、アイツ(ビエール・トンミー氏)は、頭はいいんだ」
「まあ、それは知ってますが」
「アイツは、昨日の君のBlogでの君の仕掛けに慌てたのだ」
「仕掛け?」
「ああ、歴史では西洋美術史にしか興味がない君には退屈な話かね?って、奴さ。それは、ビエールに対する一種の挑戦状であったのだ
「いや、挑戦という訳でもありませんでしたが…」
「君の指摘は図星であったのだ」
「図星?」
歴史では西洋美術史にしか興味がなかったのさ」
「そうだったんですか!?」
「うむ、もっと正確に云うと歴史には、西洋美術史にも太平洋戦争にも何にも興味はないのだアイツが母校の大学のオープンカレッジに通い、西洋美術史を学んでいるのは歴史に興味がある訳でも、美術に興味がある訳でもないのだ
「ああ、そういうことなんですね」
「そういうことだ。オープンカレッジに通っている目的は…おっと、それ以上は云うまい。そのことは君がアンケートにしているからな
「恐縮です。ええ、


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では、質問です。

ビエール・トンミー氏が、オープンカレッジに行くことにした理由を以下から選べよ。

(1)現役女子学生目当て 
[昔とった杵柄でナンパしたい、合コンとやらもしたい]

(2)オープンカレッジに通う美熟女目当て
[お互い家庭を壊さない程度に、ムフフ]

(3)美人の誉れ高い●●●子先生目当て 
[出来れば、プライベート・レッスンも]

(4)奥さんに惚れ直してもらう 
[今度、奥さんと欧州旅行をした際に、西洋の美術知識を披露して、『アナタ、ス・テ・キ』と云ってもらいたい]

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って、皆さんにお訊きしているとことです」
「まあ、どれを選んでも、要するにアイツのスケベ心の為せる技、ってことさ。アイツはそのスケベ心を見透かされたくなく、急遽、齧ったのだ」
「齧った?」
「いいか、アイツは君も認める通り、頭はいいのだ。君の挑戦に憤慨して、そしてまた、自分がスケベであることを見透かされたくなくて、急いで勉強したのだ。
「そうなのか!」
山本五十六についての本も、太平洋戦争に関する本もよく読んでいるなんて、嘘っぱちだ。つい先週も「戦艦武蔵」の本を読んだって云ってるが、そんな本があることは、君の挑戦の後に急いで勉強して、そんな本があることを知っただけだ」
「そうなんだ」
『そのとき、空母はいなかった』という本も、『あの戦争になぜ負けたのか』という本も読まずに、急いでネットで書評か何かに目を通しただけで、あたかも本を読んだかの如く云っているのだ」
「コンチクショー!」
「アイツは、君も知っての通り、フランス語が全く読めないのに、学生時代、フランス語経済学は「優」の成績をとった奴なのだ」(参照:ボクも「嘉納伝助になる!」….【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】
「ええ、そうです。知ってます」
「そんなアイツには、山本五十六についての本、太平洋戦争に関する本にどんなものがあり、その大雑把な内容について調べることなんてチョロイものなのさ」
「ああ、やられてしまった」
「アイツは更に巧妙だ。『堀悌吉のことだけは寡聞にして知らなかった』、と正直風に云っているが、これは罠だ」
「罠?」
「ああ、罠だ。『堀悌吉のことだけは知らなかった』、という言葉をそのまま受止めると、それ以外のことは知っているんだ、と錯覚させられてしまうのさ。『堀悌吉のことだけは知らなかった』、という言葉だけでは、それ以外のことを本当に知っていた、という証拠にはなっていない。なのに、その言葉を聞いた者は、『それ以外のことは知っているんだ』と錯覚してしまうのだ」
「確かにそうですね」
「アイツはそれだけのことを頭を持っている男だ。しかも、今は暇を持て余している老人だ。詐欺的な手口を考える時間は有り余っているのだ」

そうだったのか。危うくビエール・トンミー氏本人に、「無礼なことをしてしまった」と謝るところであった。

ビエールよ、その手には乗らんぞ!








2014年8月26日火曜日

戦艦「大和」→山本五十六→堀悌吉→ミスター・シューベルト(その3)






山本五十六よりも明確に反戦論者であったのが、山本五十六の友人である堀悌吉であったようだ。

…NHK BS1スペシャル「山本五十六の真実」を見たのだ。

堀悌吉は、山本五十六とは広島は江田島の海軍兵学校の同期であり、主席で卒業した秀才であった。山本五十六は9位で卒業したそうだ。

因に、エヴァンジェリスト氏の「名前」(それが何かは、ちょっと云えないが…だって、エヴァンジェリスト氏はエヴァンジェリスト氏であり、「名前」が何であるかって、何とも云いようがないではないか)は、エヴァンジェリスト氏の母親の従兄弟の名前からもらったそうだ。

その従兄弟はやはり海軍兵学校卒業の秀才であり、その従兄弟のように偉くなれるように、という願いを込めて命名したそうだ(ところが、残念ながら、エヴァンジェリスト氏がその期待に応えられなかったことは、ご存じの通りである)。

堀悌吉は、自身が記した「戦争善悪論」でこう記している。


「国家ハ其ノ正当ナル目的ノ為ニ   戦争ヲ起コシ   又ハ之ニ応スルコトアルヘシ   然レトモ其ノ目的ヲ達スルニ   戦争ニ依ラスシテ   他ニ平和的手段アラハ   之ニ依ルヲ可トスヘキナリ アラユル場合ニ於テ   国家カ行フ戦争ヲ是認シテ 善トナスヘカラサルナリ   戦争ナル行為ハ 常ニ乱凶悪ナリ   人ノ好ムトコロニ非スシテ   等シク忌ムトコロノモノ也」


英米との対戦にも反対していた堀悌吉は、海軍内で疎まれ、予備役とされてしまった。つまり、海軍から追われたのだ。

堀悌吉が予備役とされたのは1934年なので、1940年に進水した「大和」には乗っていないはずだ。

堀悌吉は、山本五十六よりも優秀であったので、本来、「大和」に乗るようになっていても不思議ではなかったのだ。でも、実際には「大和」に乗ることはなかった。そのことが却って堀悌吉の偉大さを表しているようにも思える(この意味がお判りであろうか?)。

堀悌吉は、国葬の名誉も受けた山本五十六ほどには世に知られていないが…(以下の「大和」も、呉市の大和ミュージアムに展示してあるあの「ミニチュア」だ)




山本五十六は、堀悌吉が予備役となってからも彼と交遊を続け、堀悌吉宛に何通もの書簡を送った。それらが近年、発見され、まさに「山本五十六の真実」が語られることになったのだ。


.....こんな歴史話は、ビエール・トンミー氏よ、歴史では西洋美術史にしか興味がない君には退屈な話かね?(参照:疑惑のカレッジ.....【ビエール・トンミー氏の優雅な老後】


【続く】







2014年8月25日月曜日

戦艦「大和」→山本五十六→堀悌吉→ミスター・シューベルト(その2)





NHK BS1スペシャル「山本五十六の真実」に依ると、日露戦争の日本海決戦で勝利を収めたことから、日本の海軍はその後、戦艦を重視するようになったそうだが(だから「大和」等の戦艦を増産したのだ)、山本五十六はこれからは飛行機の時代と読み、実際に真珠湾攻撃ではその飛行機で大勝利を得た

あの零戦も真珠湾攻撃に参加したはずである。(以下の零戦は、呉市の大和ミュージアムに展示してあるもの)





真珠湾攻撃という戦法を考え、そして、実行したのは、山本五十六であったが、本来、どちらかと云えば反戦であったようで(異論はあるようだが)、山本五十六は米国との開戦にも反対であったらしい。

米国との開戦に反対ではあったが、決ったことには従う主義であった為、真珠湾攻撃で米国に打撃を与え、戦法として重視していなかった戦艦(大和)にも乗ったようだ。(以下の「大和」も、呉市の大和ミュージアムに展示してあるあの「ミニチュア」だ)






真珠湾攻撃で打撃を与えれば、米国は早目に和解交渉で妥結すると思っていたようだが、そうはいかず、日本は泥沼の戦争に陥っていった訳だ。

因に、チチ・エヴァンジェリストが、自身が設計する「大和」に山本五十六元帥が乗ることを知っていたかどうかは不明である(今度お会いしたら、訊いてみよう)。


【続く】







2014年8月24日日曜日

戦艦「大和」→山本五十六→堀悌吉→ミスター・シューベルト(その1)




「こりゃ、最初の『大和』じゃあないのお」

以下の「大和」を見て、チチ・エヴァンジェリストが云った。

「最初、あの辺には砲台はなかったでえ」



この「大和」は、呉市にある「大和ミュージアム」にある「10分の1」の「大和」(つまり、大きいけれど、ミニチュアである)。

チチ・エヴァンジェリストは、戦艦「大和」の設計技師であった。

戦前、呉の海軍工廠に努める設計技師であったチチ・エヴァンジェリストは、戦艦「大和」の砲台の設計を担当したのであった。


エヴァンジェリスト氏は、NHK BS1スペシャル「山本五十六の真実」を見て、「大和」のことを思い出した。


【続く】





2014年8月23日土曜日

『マルチ』VS『再雇用者』(その6=最終回)






「素晴らしいこと」のオンパレードであった「副業」について話をして下さる人の2時間の説明をひたすら聞いたエヴァンジェリスト氏が、ついに口を開いたのであった。


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「申し訳ありません。無理です、私は」

エヴァンジェリスト氏は、「無理」の理由を説明した。

入会費と毎月の商品購入費の負担があるが、自分にはそのお金がとても出せない。

「5月の給料の手取りは8万円だったんです」

エヴァンジェリスト氏は、絞り出すような声でそう云った。

主治医と「話をして下さる人」は絶句した。そして、しばらくして「話をして下さる人」がようやく口を開いた。

「8万円って、主婦のパート代よりも安いではないですか」

これが再雇用者の現実、とエヴァンジェリスト氏は説明した。

「先生に先日、治療費が払えなくなりそうだから、治療を止めなくてはならないかもしれない、と申し上げたのは、決してオーバーに云ったのではないんです。会社の40円のコーヒーも買えなくなったんです。食費も切り詰めて、できれば食事を摂らないようにしているんです。痩せるにはその方がいいかもしれませんしね。先生には申し上げましたが、足底筋膜炎の治療にも行けないでいるんです、お金がないので」

その後、「話をして下さる人」はそれでも少し、勧誘を試みようとしたが、手取り8万円の男をどうにも勧誘する言葉を編み出すことはできなかった。

「話をして下さる人」は、相手がああ云えばこう云う、こう云えばああ云う、訓練が出来ている人のように見えたが、エヴァンジェリスト氏にはどうにもしようがないようなのであった。

エヴァンジェリスト氏は、そこに畳み掛けるように云った。

できれば、今月(8月)中に死にたいんですよね。今月まで生命保険が有効なんです。それも出来れば、出張中の飛行機事故死がいいんです。事故死の方が保険の支払額大きいですし、飛行機事故死だと、生命保険の支払の他に、航空会社からの慰謝料が女房に入りますからね。それに、死んだら、住宅ローンの支払も免除されますからね。でも、自殺はしませんよ。自殺では住宅ローンは免除されなくなりますから。ああ、それから私が死ぬと、女房に遺族年金が70%程度出るようです。二人で100%より、一人で70%の方が得ですからね」

「まあ、そんなこと仰らずに...」

「話をして下さる人」は、そうとしかいいようがなかった。

……こうして、エヴァンジェリスト氏は、「マルチ」に引っ掛かることすらできなかったのである。涙なしでは語れない話であった。




【おしまい】





2014年8月22日金曜日

『マルチ』VS『再雇用者』(その5)






主治医が紹介してくれたのは、『マルチ』であった。『マルチ商法』なのであった。

主治医自身も副業として行っている『マルチ』であった。主治医にとっては、初めての『マルチ』ではなく、それまでの『マルチ』よりもいいもの、信頼できるもの、とご自身思われているものである。

その『マルチ』の説明をエヴァンジェリスト氏は、びしょ濡れのズボンと足が気になりながら、おそよ2時間ひたすら聞いた。

「マルチ」には興味がなく、そんなものに手を出す気はなかったので、説明を聞くのも面倒臭かったが、エヴァンジェリスト氏の生活の困窮を心配し、紹介してくれた主治医のことを考えると、途中で説明を止める訳にもいかなかったのである。


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「副業」について話をして下さる人の説明は、「素晴らしいこと」のオンパレードであった。

取扱い商品の素晴らしさ、創業者で会長の優秀さ(飛び級で大学を卒業し、卒業後、程なくMBA取得コースの教授となったこと等)と人柄の良さ(社員、会員思いだそうだ)、商品開発責任者の女性の商品に対するコダワリ、会社も商品開発責任者の女性も米国のBusiness Awardを受賞していること等々である。

普段のエヴァンジェリスト氏なら、こんな素晴らしいこと」のオンパレードに対しては、途中で口を挟み、いちゃもんを付けるところであるが、この日は、主治医のことを考慮し、黙って聞いていた。

以前、自宅のインターホーン越しに宗教の勧誘に来た人に対峙したことがあった。

エヴァンジェリスト氏は、自分も宗教を興したところだと云い、宗教の勧誘に来た人に対して、むしろアナタの方こそ、こちらの宗教に入らないか、と二十分程、話し続け(エヴァンジェリスト氏は、学生時代、カトリック文学を専攻していたので、結構、宗教用語を使えるのである)、ついに勧誘者の方から「し、し、失礼します」と云って退散させたことのある程の人なのである。

......そして、エヴァンジェリスト氏は口を開いた。





【続く】







2014年8月21日木曜日

『マルチ』VS『再雇用者』(その4)







何回かの日程変更を経て、ついにその日が来た


2014年8月10日(日)、「副業」について話をして下さる人とエヴァンジェリスト氏が対面する時が来たのだ。


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台風の影響で大荒れの天候の中をエヴァンジェリスト氏は、クリニックまで歩いて行った。

歩道も冠水する程の豪雨の為、20分を要した。ズボンも靴もびしょ濡れになった。

バスで3停留所程のところにクリニックがあり、雨なのでバスで行こうかと思ったが、自宅を出た時は、少し小降りになっていたことと、そして、なによりバス代節約の為、クリニックまで歩いて行ったのだ。

が、途中で豪雨となり、まさに濡れ鼠となってしまった。

エヴァンジェリスト氏の到着から5分して、「話をして下さる人」も来た。

PCの画面を使ったプレゼンテーションであった。

プレゼンテーションの最初を聞いただけで、それが何か、エヴァンジェリスト氏は理解した。

「マルチ」であった。マルチ・ネットワーク・ビジネス(俗に云う『マルチ商法』)であった。

会員制で、口コミで商品展開をしていき、会員が仲間の会員を増やしていくと、場合によってはかなりの報酬が得られる、というものである。

最近、日本上陸をした米国系企業の「マルチ」であった(合法的なもので、ネズミ講ではないようだ)。

申すまでもないであろうが、エヴァンジェリスト氏は「マルチ」には興味がない、というか、そんなものに手を出す馬鹿ではなかった。

説明を聞くのも面倒臭かったが、エヴァンジェリスト氏の生活の困窮を心配し、紹介してくれた主治医(本当に、善意の方である)のことを考えると、途中で説明を止める訳にもいかず、びしょ濡れのズボンと足が気になりながら、おそよ2時間の説明をひたすら聞いた。





【続く】









『マルチ』VS『再雇用者』(その3)






「無理に、とは云えないんですが、してみますか、副業?」

エヴァンジェリスト氏の窮状を見るに見かねた主治医が云った。

「します、します、します!」

一片の躊躇もなく、エヴァンジェリスト氏は即答した。

「じゃあ、メールしますね」

主治医のその言葉に光を見出したように感じた。

「有難うございます!」


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何日かして、主治医からエヴァンジェリスト氏にメールがあった。次の土曜日にクリニックまで来れるか、というものであった。

エヴァンジェリスト氏は、一も二もなく「行けます」と返信した。

しかし、翌日、主治医からメールが来た。

話をして下さる人が、タッチの差で他の予定が入ったので...」

という内容であった。

「話をして下さる人?」

疑問であった。先生が話をしてくれるのではないのか?先生が自分の副業(多分、お店か何かであろう)の話をしてくれるのではなかったのか。

何か想定していたものとは違う、と思ったが、主治医とその「話をして下さる人」の都合に合せて日程変更をした。

しかし、その日程も、今度はエヴァンジェリスト氏に急に入った出張で再度、変更となった。

そして、いよいよ、その日が来た。それは、2014年8月10日(日)であった。

日程変更のやり取りの過程で、主治医から、その人(話をして下さる人)は「事業」で儲けるということを良く知っている人、という言葉があり、これは何だか違うぞ、とは思うようになっていたが、先ずは、会ってみることとした





【続く】












2014年8月20日水曜日

『マルチ』VS『再雇用者』(その2)






眼をPCの電子カルテから机に落とし、しばらく「うーん」と唸った後、主治医はエヴァンジェリスト氏に云った。

「Eさん、副業してみます?」

エヴァンジェリスト氏が、生活の困窮から治療を止めなくてはならないかもしれない、と云ったからであった。


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エヴァンジェリスト氏の顔が輝いた。

「します、します!」

土日か、平日の帰宅後にコンビニでバイトでもしないといけないかと思っていたのだ(コンビニでこんな老人を雇ってくれるか怪しいのに、勝手にそう思っているのだ)

「私、副業をしているんですよ。私も、このクリニックのローンが70歳まであり、でも自分が体を壊したら、と思って、その場合の保険です」

なろほど、個人の開業医もよく考えると大変なんだ、不安で一杯なんだ。エヴァンジェリスト氏は納得した。

「無理に、とは云えないんですが、してみますか、副業?」

「します、します、します!」

どんな副業であろうか?先生は、カフェでも開いたのであろうか?

「じゃあ、今度、説明しますね。いつも会社からは何時頃、帰って来ます?」

通勤に1時間半かかる愚痴を云いながら、早くても午後7時過ぎ、と答えると、

「じゃあ、メールしますね」

主治医のその言葉に光を見出したように感じた。

「有難うございます!」





【続く】