2014年8月22日金曜日

『マルチ』VS『再雇用者』(その5)






主治医が紹介してくれたのは、『マルチ』であった。『マルチ商法』なのであった。

主治医自身も副業として行っている『マルチ』であった。主治医にとっては、初めての『マルチ』ではなく、それまでの『マルチ』よりもいいもの、信頼できるもの、とご自身思われているものである。

その『マルチ』の説明をエヴァンジェリスト氏は、びしょ濡れのズボンと足が気になりながら、おそよ2時間ひたすら聞いた。

「マルチ」には興味がなく、そんなものに手を出す気はなかったので、説明を聞くのも面倒臭かったが、エヴァンジェリスト氏の生活の困窮を心配し、紹介してくれた主治医のことを考えると、途中で説明を止める訳にもいかなかったのである。


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「副業」について話をして下さる人の説明は、「素晴らしいこと」のオンパレードであった。

取扱い商品の素晴らしさ、創業者で会長の優秀さ(飛び級で大学を卒業し、卒業後、程なくMBA取得コースの教授となったこと等)と人柄の良さ(社員、会員思いだそうだ)、商品開発責任者の女性の商品に対するコダワリ、会社も商品開発責任者の女性も米国のBusiness Awardを受賞していること等々である。

普段のエヴァンジェリスト氏なら、こんな素晴らしいこと」のオンパレードに対しては、途中で口を挟み、いちゃもんを付けるところであるが、この日は、主治医のことを考慮し、黙って聞いていた。

以前、自宅のインターホーン越しに宗教の勧誘に来た人に対峙したことがあった。

エヴァンジェリスト氏は、自分も宗教を興したところだと云い、宗教の勧誘に来た人に対して、むしろアナタの方こそ、こちらの宗教に入らないか、と二十分程、話し続け(エヴァンジェリスト氏は、学生時代、カトリック文学を専攻していたので、結構、宗教用語を使えるのである)、ついに勧誘者の方から「し、し、失礼します」と云って退散させたことのある程の人なのである。

......そして、エヴァンジェリスト氏は口を開いた。





【続く】







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