(参照:珍宝の國記念學院に【ビエール・トンミー記念學院】の続きである)
「断念とはどういうことだ!」
気色ばんで迫るエヴァンジェリスト氏にビエール・トンミー氏は余裕の笑みを浮かべ、答えた。
「まあ、仕方ないのではないか」
『學院名は先生の仰せの通り、珍宝の國記念學院、とします。その代りに、先生の奥様に名誉學院長になって頂きたい』
トビマス理事長にそう云われて、心底困った様子を見せた同じ人物とは思えぬビエール・トンミー氏である。
「しかし、君はどこで『断念』情報を得たのだ?」
珍宝の國記念學院の設立は断念されたのだ。
「『珍宝の國記念學院』設立断念については、ニュースにはなっていないはずだ。いや、そもそも『珍宝の國記念學院』設立自体、まだニュースにはなっていなかった」
ビエール・トンミー氏は、友であるエヴァンジェリスト氏に『珍宝の國記念學院』(当初は、『ビエール・トンミー記念學院』)設立について相談はした。
トビマス理事長は、新たに設立しようとしている『學院』について、ビエール・トンミー氏に持ち掛けたのだ。
『ただ、新しく作る学院に御名前を付けさせて頂きたいのではないのです。先生の思想に共鳴するのです』
「特派員からの情報だ。トビマス理事長は、『涙が出るような思いだ。もう少し暖かい目で見てほしかった。断腸の思いである』と涙したというではないか」
エヴァンジェリスト氏の言い方は、詰問調であった。
「まあ、仕方ないのではないか。変態チョク語を学院生たちに暗唱させるということへの世間の風当たりはかなり強かったようだからな」
「君はそれでいいのか!」
「いや、まあ、その….」
「君はホッとしているのだろ」
「な、な、なんだ?」
「分っているのだ。君は、トビマス理事長からの『先生の奥様に名誉學院長になって頂きたい』という申し出に動揺を示した」
「うっ….」
ビエール・トンミー氏の目は虚空を泳いだ。
「奥様は、君が変態であることをご存じないのであろう」
「いや、ボクは神聖にして真性なる変態である。それは妻も知ることである」
「ふん!パジャマで外出するのは、ただ自堕落なだけ、そして、母校のハンカチ大学のオープン・カレッジ通いは、向学心の表れ、と奥様はお思いなのだ」
「いや、いや、ボクは神聖にして真性なる変態である。それは妻も知ることである」
「では、君が奥様とアレする時はどうだ?」
「いや、いや、いや、ボクは神聖にして真性なる変態である。それは妻も知ることである」
「分っている。ソノ時、君は極めてノーマルだ」
「み、み、見ていたのか?」
「奥様が『珍宝の國記念學院』の理事長になると、奥様に君が変態であることがバレる。それ以前に、『珍宝の國記念學院』にさせようとしたのも、『ビエール・トンミー記念學院』では、君が変態であることはバレバレになるからなのだ!」
「ボクはまだ現役の年金老人である以上、ボクの名前を冠にするのは相応しくない、と考えたのだ」
「君は、自身が変態であることを恥じているのか!」
「いや、変態は世界を救うのだ」
「そうだ、その通りだ」
「えっ?君も……」
「私は変態ではない。しかし、私は、変態を認めるものである」
「?」
「変態は素晴らしい。変態であることは、意義深いことだ」
「へっ?」
「今の世は、なんとノーマルが蔓延っていることであろうか。誰もが、教師、学校に、上司、会社に従順だ。政治家、政府の言を真に受け過ぎだ」
「そうだ、そうなのだ」
「皆、常識人過ぎるのだ。だから今、この國はダメになったのだ」
「君という人は….」
「パジャマを着よ、町に出よう!」
「そうだ!!!その通りだ。ボクは既にそれを実践しているのだ!!!」
「では、奥様に告白しよう、『ボクは変態だ』と」
「いや、それは……それだけは……..」
ビエール・トンミー氏の目は、再び、虚空を泳ぎ始めた。
(おしまい?)
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