(参照:全文公開【『水面下』のメール】の続き)
「ねええ、アータ。アータってサックス吹いてたことあるの?」
唐突な妻の質問に、ビエール・トンミー氏は狼狽えざるを得なかった。
「な、な、なんだ。いきなり」
「訊かれたのよ、●●さんの奥様に」
「マ、マ,●●さん?」
「あーら、アータ、知らなかったかしら。紅茶教室でよくご一緒になる方よ」
「あ、そ」
「西洋美術史にも詳しい方よ」
「せ、せ、西洋…」
「アータ,どうしたの、そんなにつっかえちゃって。そう云えば、アータも西洋美術史が好きなのよね」
「ま、まーな」
「マダム・●●って綺麗な方よ」
「そうなのか!?」
ビエール・トンミー氏は、そう訊かざるを得なかった。
「そりゃ、もう、女から見ても美しい方よ。殿方なら夢中になるわね」
「そんなに綺麗なのか!?」
「あーら、アータ、お会いしたいの?マダム・●●に」
「いや、君よりも綺麗な女性っているはずがない」
「ま、ま、ま、まあああ。照れるじゃないの!」
「ボクは生まれてこのかた、嘘をついたことはない」
「ん、もう、アータったら」
「ん、オ・マ・エ」
「あ、そう、そう。そのマダム・●●がね、仰るのよ」
「ん?」
「『トンミ-さんのご主人ってサックスをお吹きになるの?』って」
「何故だ?」
「最近、ネットで、トンミーっていう老人が若い頃、サックスを吹いていたことがある、ってBlogか何か見たような気がするんですって」
「そんなはずがない!...いや、それはボクではない。ボクはサックスなんて吹いたことはない!」
「そうよねえ。アタシもアータからそんなこと聞いたことないもの」
「そうだ、そうだ」
「でも、ネットで調べてみようかしら」
「えっ!....そんな必要はない!」
「どうしたの?ムキになって」
「いや、そんなどうでもいいことするよりも、ボクの横においで」
「きゃっ!」
「サックスではなく、君を吹いてやるよ」
「………んんん、あはっ……」
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