「ふーっ」
ひどい寝汗だった。
「なんで、あんな夢を見たのだ….」
ビエール・トンミー氏は、ベッドに上半身を起こしたまま、パジャマの袖で汗をぬぐった。
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………..あー嫌な夢を見た。
オレの嫌いな上司(いつもコイツが出てくる)が実施したオレに対する昇進試験の夢だった。
試験はグループで行うケーススタディだった。
ある課題を解決するグループのメンバーに対して、オレは上司としてどんなアドバイスを与えれば良いかというものだ。
ケーススタディはものすごく具体的で、ある交通不便な海沿いの町の物流を改善する為に試験官である上司と受験者であるオレとオレの部下たちの7-8人がその町を訪れる、というものであった。
グループの部下やオレが町の主だった人に聞き取り取りを行なうことから試験は始った。
オレは、天ぷら屋を兼ねたその町唯一の雑貨屋にインタビューをした(なんで天ぷら屋なのかは不明だ)。
試験官である上司は、優秀な部下には優しいが、そうでない部下には厳しい人だった。
いや、オレは優秀であったが、その上司は優秀な部下の中でオレにだけは厳しかった。
今回の試験でも、まるで座布団のような大きさと厚さの洋書をオレに示して「もう読んだろう」と云ってきたのだ。その洋書に今回の試験の前提が書かれていたのである。
しかし、それは前の晩に入っていたその海沿いの町の寂れた旅館で、夕食時、ビールを浴びるように飲まされた後、夜11時に渡されたのだ。
勿論、洋書に目を通せる訳がなかった。
前提も分らずにオレは試験に臨むことになったのだ。
何をヒアリングしていいのか、よく分らず、オレは何かを雑貨屋に(いや、天ぷら屋、というべきか)訊いていた。
しどろもどろになり、天ぷら屋に「もういいかいのおう、兄ちゃん」と云われてしまった。
上司は北叟笑んでいた。部下たちは、呆れていたのか、可哀想に思ってか、オレから視線をそらしていた。
オレは、上司にはめられたのだ。
オレには分っていた。何故、優秀な部下の中でオレにだけは厳しかったのか。
上司はオレに嫉妬していたのだ。
オレの容姿に嫉妬していたのだ。自分からは云いたくはないが、オレはハンサムであった(今なら、イケメンというのだろう)。
ハンサムであったから、10も歳下の後輩美人女性社員と結婚できたのだ。今のオレの妻だ。妻は、会社のマドンナで、問題の上司も目をつけていたことは知っていた。妻帯者で、小学生の子供が二人もいるというのに。
自分が狙っていた女をモノにしたオレのことをよくは思っていなかったのだ。
オレは、この昇進試験で、謂れのない意趣返しを受けていたのだ。
はめられてしまった…..しかし、試験を投げ出すわけにはいかない。妻の為にも、昇進して給料を上げないといけないのだ。
しかし、前提も分らずに受験することは、辛い、というか無謀だ。
天ぷら屋を出て(もうこの際、雑貨屋でも天ぷら屋でもいい)、次に病院に行き、そこで、医師と看護師たちにインタビューする場面で目が覚めた。
夢から醒めてほっとした…….
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「なんで、隠滅生活の変態がこんな夢を見るのだろう….」
ベッドに上半身を起こしたまま、ビエール・トンミー氏は、枕元のiPhoneを手に取った。
「そうだ、アイツのせいだ。アイツがあんな気持ち悪いメッセージを送ってきたからだ」
ビエール・トンミー氏のiPhoneの画面には、友人のエヴァンジェリスト氏からのメッセージが表示されていた。
「ビエちゃん、お休みなさい、チュッ、チュッ」
解説するまでもない。ハリウッド俳優のゲス不倫をネタにした巫山戯たメッセージであった。
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