(参照:アメリカに自由はあったか(その18)【米国出張記】の続き)
『トリニティ教会』の次に、エヴァンジェリスト氏と上司とが訪れたのは、『US CUSTOM HOUSE』であった。
二人は、『US CUSTOM HOUSE』が何であるのか、知らなかった。何体もある彫像が重々しい雰囲気を出しており、『US』とあるので、米国政府の何らかの機関であることは察しがついた。
Wall Street(ウォール街)からそう遠くなく、ウォール街にある『NYSE』の建物にどこか似ていると感じたので、やはりお金に絡んだ機関であり、その建物であろうと、エヴァンジェリスト氏は思った。
そんな建物を前にすると、エヴァンジェリスト氏は、自分が世界を股にかける『デキル』ビジネスマンになった気がした。
だから、上司に写真を撮ってくれ、と頼んだ。『US CUSTOM HOUSE』を背景に自分を撮ってくれ、と頼んだ。
上司は、意外にも快くエヴァンジェリスト氏の依頼に応じてくれた。
しかし、シャターを押した時、背後にバスが通った。また、怪しげな男も通ったので、もう1枚撮影を上司に頼んだ。
見よ、若き日の(35歳の)エヴァンジェリスト氏の誇らしげな立ち姿を!
今度は、『デキル』ビジネスマン風に撮れたような気がした。上司に御礼を云った。
いつもは身勝手な上司だが、たまにはこちらに気を遣ってくれることもあるんだな、と見直した。
しかし、エヴァンジェリスト氏が甘いのは、そういうところだ。
1989年6月24日、『US CUSTOM HOUSE』を背にしてエヴァンジェリスト氏と上司が向ったのは、『バッテリー・パーク』(Battery Park)であった。
『バッテリー・パーク』に入ると、上司は再び、自分の妻との馴れ初めについての話の続きを始めたのだ。どうして『バッテリー・パーク』で話の続きを始めたのかは分らない。
5thアヴェニュやタイムズ・スクエア辺りで、自分の妻は、某県の殿様の家系だと云い始め、それについては、エヴァンジェリスト氏は、少しは反応していたのであった。
しかし、その後、セントラル・パークや『NYSE』、『トリニティ教会』、『US CUSTOM HOUSE』を回っている間も、上司は、夫人とのなりそめも語っていたかもしれなかったが、エヴァンジェリスト氏に興味はなく、上司の話はただ耳に入れているだけであった。
上司の話はろくに聞かず、セントラル・パークを周遊すると思われる馬車や、『NYSE』、『トリニティ教会』を写真に撮り、『US CUSTOM HOUSE』は、自分も一緒に写真に収まる等、していたのだ。
だが、自分の写真を撮ってもらい、こちらに気を遣ってくれることもあるんだと上司を見直したりするものだから、そんな隙を与えたものだからか、上司は、いい気になった。
「披露宴を2回やんなきゃ、いけなかったんだぜ」
「はあ?披露宴を2回?」
しまった、しまった。思わず、反応してしまった。
「女房の実家(〇〇県だ)でと東京との2回だ」
「それは、奥様がお姫様だから…..」
「そうなんだよ。参っちゃったぜ。お姫様だからさあ、実家の方の披露宴は300人くらい集ったんだせ」
「へえええ、300人ですか!?」
エヴァンジェリスト氏は、信州の友人の披露宴を思い出した。友人は、地元の大きな新聞販売店の跡取り息子であった。
だから、列席者はおよそ300人、地元の有名新聞社の信濃毎日新聞社の役員も、日本経済新聞社の役員も列席していた。
エヴァンジェリスト氏は、新郎新婦から一番遠い家族席に同席したので、新郎新婦の顔もよく見えない程であった。それほど、盛大な披露宴であった。
上司が、夫人の実家(地元)で行った披露宴もそんな感じであったのか、と思った。
「色んな人が挨拶に回って来て、その度に酒を注がれるから、酔っ払っちゃって大変だったぜ」
ああ、アンタが酔っ払ったら翌日の仕事をすっぽかすことは知っている。
「女房の実家は、土地も一杯持ってたから、その管理も大変なんだぜ。相続したからな」
なんだ、なんだ!そんなに土地を持っているのか!?奥様名義ではあろうが。いいのか、そんなことがあって。
自分のように真面目に働いているものが、家も持てないでいるのに、酔っ払って仕事をすっぽかすような奴が、そんな土地持ち、金持ちだなんて!
……エヴァンジェリスト氏が家(中古マンション)を購入することになったのは、それから25年後、定年(60歳)を1ヶ月前にした時なのである。その時まで、エヴァンジェリスト氏は、結婚してから31年の間、賃貸住まいを続けることになるのだ。
上司の話に怒りを覚えたからなのか、そこが『バッテリー・パーク』(バッテリーの公園)なので感電したからなのか、エヴァンジェリスト氏は首筋が、ピリピリ、チクチクする感じがしたのであった。
(続く)
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