(【道徳罪(前編)】パジャマで逮捕?の続き)
「『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』(ASTON WAIKIKI BEACH TOWER)でのことも、ネタはあがっているんですよ!」
『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』と聞き、ビエール・トンミー氏は怯んだ。
「『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』でのことは、覚えておいでですよね?」
目つきの決してよくない60歳前後の男が畳み掛けてきた。
「何のことだ?」
「ほほー、お得意のお惚けですか。では、先ず、訊きましょう。ホノルルのホテル『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』に宿泊されたことはありますね?」
「いや、どうだったかなあ…」
「簡単な質問ですよ。私は、ただ、ホテル『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』に宿泊されたことはあるかどうか、をお訊きしているだけなんですよ」
正体不明の男をビエール・トンミー氏は、週刊文春か、週刊新潮か、フライデーの記者かもしれない、と捉えていた。油断ならない。
「簡単な質問でしょ。『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』に宿泊したこと、ありますよね?」
「私の記憶を辿る限り、ありません」
「そんな曖昧な答弁は、止めて頂きたい、国会審議じゃあないんだから。いいですか、もう一度、訊きます。『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』に宿泊したこと、ありますよね?」
「私の記憶を辿る限り、ありません」
「どうして、あんな超高級ホテルに泊ったかというと、会社の保養所として契約していて格安で泊まれたからですよね?」
「私の記憶を辿る限り、知りません」
「では、部屋について、お訊きしましょう。2ベットルーム、デラックススイート、オーシャンフロントビュー、キッチン付の超豪華な高層階の部屋でしたね」
「私の記憶を辿る限り、知りません」
「エレベーターは鍵をささないと止まらなかったのですよね?」
「私の記憶を辿る限り、知りません」
「テラスに出ると道を挟んで真下がワイキキビーチでしたね?」
「私の記憶を辿る限り、知りません」
「さて、ここからが本題です。最終日に、『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』の部屋のトイレにウンコを詰まらせましたね?」
「私の記憶を辿る限り、詰まらせていません」
「ただ詰まらせただけではなく、何も手当せずに黙ってチェックアウトして逃げましたね?」
「私の記憶を辿る限り、逃げていません」
「今、『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』は、かつて貴方が勤務していた会社と保養所の契約がなくなっていることはご存じですよね?」
「えっ!?」
ビエール・トンミー氏は、思わず、素な反応をしてしまった。
「きっとウンコを詰まらせて逃げた従業員のいる会社とは契約解消だということになったのですね?」
「えっ、えっ、えっ!?」
ビエール・トンミー氏の顔は、ホテル『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』のトイレをウンコで詰まらせた時のように青くなり、冷や汗までかいていた。
「超高級ホテルのトイレをウンコで詰まらせ、何も手当せずに黙ってチェックアウトして逃げるなんてこと、道徳的に許されないのではないですか!?」
「はあ?道徳的に?何をほざいている」
ビエール・トンミー氏は思わずムキになってしまっている。
「『ウイーン』でのことも、ネタはあがっているんですよ!」
『ウイーン』と聞き、ビエール・トンミー氏は、目つきの悪い男を振り切って、自宅の門の中に入ろうとした。
(続く)
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