(うつり病に導かれ[その24]の続き)
「オーヴンって知ってる?」
友人が妙なことを訊いて来た。広島市の翠町公園(今は、翠町第二公園というらしいが)の東側の道を北上し、突き当りの角を左折し、次の道角を今度は右折した道路の突き当たりまで来ていた。
「知ってるけど」
ビエール・トンミー氏は、友人の質問の意図をはかりかねがら答えた。
「ビスケットとクッキーの違いは知ってる?」
友人のエヴァンジェリスト氏は、また妙なことを訊く。
「誕生日パーティーに呼ばれたんだ、『クッキー』子さんの」
(参照:ハブテン少年[その32])
道路の突き当たりには、煉瓦造りの古い建物があり、その前にドブ川があった。友人から、小学5年生の時に好きだった女の子、小学6年生の時に好きだった女の子に続けて、今度は、彼が中学1年の時に好きだった『クッキー』子さんのことを聞かされながら、突き当たりを左折し、ドブ川に沿って歩きながら、
「ふうん、そうなんだ」
と、ちゃんと返事はしたのは、エヴァンジェリスト少年が唯一人の友人であったからだ。
「(そうだ。今もそうだが、ボクには友人は殆どいない。アイツだけが友人だ。だから、毎日、牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、翠町中学の東側の道を北上し、翠町のアイツのウチまで行き、一緒に皆実高校まで通学するようにしたのだ、あの頃は…….ん?)」
目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻った。
「アータ、うどんよ」
と、名前を呼ばれ、重い瞼を上げたビエール・トンミー氏は、自分が自分の部屋のベッドに寝ていることを思い出した。
「ああ…」
と弱った声で返事し、ふらつきの残る上半身を起き上がらせた。妻が、うどんを作って持って来てくれていたのだ。
「じゃ、アーンして」
ベッド・サイドに腰を落とした妻が、箸でうどんを掬い、食べさせてくれる。
「アーン」
新婚の頃は、病気でなくとも、こうして『アーンして』をしたことを思い出す。
「(んぐっ!)」
それも、口移しであった。
「うーん、もう!何を思い出してるの!」
と、妻は、夫の布団を叩く。
「うっ!」
股間を叩かれ、呻いた。
「口移しだと、風邪、伝染っちゃうでしょ」
と、頬を染めがら、また、箸でうどんを掬う。
「はーい、また、アーンして」
しかし、頭痛が酷く、熱も下っておらず、うどんは3-4本しか啜れなかった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿