2020年2月23日日曜日

うつり病に導かれ[その24]






「(んぐっ!)」

高熱でふらつく体ながら、ビエール・トンミー氏が、思わず『反応』してしまったのは、『メディシン・アニータ薬局』のアニータにウインクされたからだけではなかった。

「(んぐっ!んぐっ!)」

カウンターに座った時から感じていた何かの強烈な香りが、ウインクが起こした風に乗ったかのように、さらに強く顔の吹き付けてきたようであったのだ。

「ウフン。『リビドー・ロゼ』ネ。フェロモン・コースイ。ウフン』

訊いてもいないのに、他人の心も股間をも読んだかのように説明してくる。


「(え…フェロモン!んぐっ!)」

詰まっている鼻でも感じ、慌てて両手で股間を抑える。

「シハライ、ドースル?」

その質問でようやく自分を取り戻し、答えようとしたところ、

「エヴァPay、オッケーヨ」

と、またもや他人の心読んだかのような言葉を発する。

「あ…では」

とiPhoneを取り出し、エヴァPayのQRコードを見せた。その為、手が股間から離れた。

「アー!ウーン!ダイジョウブウネエ。ゲンキ-ネエ」

アニータは、カウンター越しにソレを確認し、また、ウインクする。

「え!いや…んぐっ!

iPhoneを持った手を股間に当てる。

「ハーイ、クスリ、フクロイレタネ」

と薬の入った袋を手渡してきた。

「あ…はい…」

片手を股間から離さず、薬を受け取る。

「ジャネエー。『カッーコントー』ノムヨオ。カゼニワ、『カッーコントー』ネエ。ウフン」

立ち上がったビエール・トンミー氏は、体の前を隠すかのように前傾姿勢でカウンターを離れ、そのまま『メディシン・アニータ薬局』を出た。


(続く)



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