(うつり病に導かれ[その23]の続き)
「(んぐっ!)」
高熱でふらつく体ながら、ビエール・トンミー氏が、思わず『反応』してしまったのは、『メディシン・アニータ薬局』のアニータにウインクされたからだけではなかった。
「(んぐっ!んぐっ!)」
カウンターに座った時から感じていた何かの強烈な香りが、ウインクが起こした風に乗ったかのように、さらに強く顔の吹き付けてきたようであったのだ。
「ウフン。『リビドー・ロゼ』ネ。フェロモン・コースイ。ウフン』
訊いてもいないのに、他人の心も股間をも読んだかのように説明してくる。
「(え…フェロモン!んぐっ!)」
詰まっている鼻でも感じ、慌てて両手で股間を抑える。
「シハライ、ドースル?」
その質問でようやく自分を取り戻し、答えようとしたところ、
「エヴァPay、オッケーヨ」
と、またもや他人の心読んだかのような言葉を発する。
「あ…では」
とiPhoneを取り出し、エヴァPayのQRコードを見せた。その為、手が股間から離れた。
「アー!ウーン!ダイジョウブウネエ。ゲンキ-ネエ」
アニータは、カウンター越しにソレを確認し、また、ウインクする。
「え!いや…んぐっ!」
iPhoneを持った手を股間に当てる。
「ハーイ、クスリ、フクロイレタネ」
と薬の入った袋を手渡してきた。
「あ…はい…」
片手を股間から離さず、薬を受け取る。
「ジャネエー。『カッーコントー』ノムヨオ。カゼニワ、『カッーコントー』ネエ。ウフン」
立ち上がったビエール・トンミー氏は、体の前を隠すかのように前傾姿勢でカウンターを離れ、そのまま『メディシン・アニータ薬局』を出た。
(続く)
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