2020年2月12日水曜日

うつり病に導かれ[その13]






「うっ!」

何かに腹部を押され、ビエール・トンミー氏は、体を『くの字』に曲げた。

「うっ、うっ、うっ!」

半開きとなった瞼の間から、まさに星が飛び出した、と思えた。

「あ~れええ!あかんわああ」

間近で妙な関西弁が発せられた。

「(な、な、な、なんだ!?)」

体は『くの字』のまま、眼を開けた。


「ごめんなさい!」

ビエール・トンミー氏は、ようやく事態を認識した。診察室から出てきた、60歳台と思しきふくよかな女性が、よろめいたのか、座っていた自分の体に倒れてきたのだ。

「大丈夫ですか?」

付き添いの娘が、声を掛けてきていたのだ。

「だ、だ、大丈夫で…」

と云い掛けたものの、母親の方は、まだ倒れ込んできたままであった。

「はああ~、もうだめええ」

『だめ』と云う割には、元気な声で母親は、倒れ込んだまま弱音を吐く。

「ん、んっ!」

その時、ビエール・トンミー氏は、何かを感じたのだ。


(続く)



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