(うつり病に導かれ[その20]の続き)
「(んぐっ!)」
看護師ローラは、まさか自分が、イケメンの名残を残すとはいえこんな老人の臭いに『反応』してしまうとは思いもしなかった。
「(これって、老人臭?)」
看護師ローラは、知らなかった。確かにその老患者が放つ臭気には、老人臭も混じっていたが、それだけではないことを知らなかった。
「(老人臭って、鼻がひん曲がりそうだけど、でもお…こんなにい…)」
看護師ローラは、インフルエンザ検査の時には、これほどに密着しておらず、また、マスクもしており、感じなかった臭気に、今、顔中が包まれていた。
「(臭い!でも、アタシは、看護師。患者さんを支えなければ)」
…..という職業意識が、口実であることは判っていた。老患者の体は重かったが、そのままの姿勢でいたかった。しかし…
「トンミーさん、大丈夫ですか?」
ドクトル・ギャランドゥが椅子から立ち上がり、ビエール・トンミー氏の体を看護師から離した。
「(なに、余計なことすんの!)」
看護師ローラは、ドクトル・ギャランドゥを睨んだが、医師は気付かない。
「横になりますか?」
「いえ、大丈夫です…」
と、医師に支えられたまま、ビーエル・トンミー氏は、診察室の出口まで行き、その後は、一人で歩いて行った。
「(また、来て……)」
看護師ローラは、前傾姿勢で、いかにも老人といった風体の患者の背を見送った。
(続く)
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