(うつり病に導かれ[その22]の続き)
「(な、なんだ?)」
何かの強烈な香りに、ビエール・トンミー氏は、熱の為、元々揺らついていた体を更に、揺らせ、倒れそうになった。
「アナタア、ダイジョーブウ?」
たどたどしい日本語だ。
「うっ、ぷっ…ぷう!」
と、息を吐き出し、前方に無を向けた。
「ネツ、アルネ?」
何かの強烈な香りと共に、赤い唇が、向ってきていた。
「ええ!」
怯んで、身を椅子の背に倒した。
「モー、ダイジョーブウ、ヨオ」
「え?」
赤い唇の主は、両肘をカウンターにつき、身を乗り出してきていた。何かの強烈な香りに襲われる。
「クスリ、アルヨオ」
と更に、顔を近づけてきた時、カウンターに乗っているのは、肘だけではなく、胸も、とてつもなく大きな胸も乗っていることに気付いた。
「(んぐっ!)」
白衣の胸元が開き、谷間が深淵を見せていた。
「(んぐっ!んぐっ!)」
と、股間を抑えた為、前傾姿勢となり、より赤い唇が間近に迫った。何かの強烈な香りも更に迫る。
「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」
「オー!グアイ、ワルソネエエ」
「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」
「デモオ、ダイジョーブヨオ。クスリ、アルカラネエ」
と、カウンターに処方された薬を並べ始めた。白衣に付けられたネーム・プレートには、『アニータ』とあった。ようやく、赤い唇の主の顔も認識できるようになった。
「サイショ、『カッーコントー』、ネエ。カゼニハ、『カッーコントー』、シッテルデショ?」
顔は、そして、ボリュームのある体型も南米系のように見えた。日本語がたどたどしいのは、そのせいか、と納得したが、
「ソレカラア、『アスベリン』、ネエ。セキ、オサエルネエ」
よく日本の薬剤師の資格を取得できたものだ、と思った。
「デネエ、『ザイザル』。コレ、ハナニキクネエ」
しかも、『メディシン・アニータ薬局』ということは、経営者なのか、と、何かの強烈な香りに圧倒されながらも、感心した。
「サイゴネエ、『カロナール』、ヨオ。ネツとズツウ、カローナールネエ」
と、ダジャレを飛ばして、ウインクしてきた。
(続く)
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