(うつり病に導かれ[その21]の続き)
「…ああ…『エヴァPay』、使えますか?」
熱に浮かされながらも、ビエール・トンミー氏は、『ギャランドゥ・クリニック』の受付で、スマフォ決済を口にした。昨年(2019年)10月以来、ポイント集めに必死となっているのだ。
「は?『エヴァPay』?なんですか。それ?使えません」
と、あっさりと否定され、現金で支払を済ませ、処方箋を手に、ふらつきながら『ギャランドゥ・クリニック』を出た。
「(ここか…)」
薬局は、『ギャランドゥ・クリニック』と同じ医療ビルの中にあった。
「(アニータ?変った名前だ。でも、どこかで聞いたことがあるような…)」
『メディシン・アニータ薬局』が、その薬局の名前であった。
「少々お待ち下さい」
受付に処方箋を渡し、椅子に座り、眼を閉じ、待つ。
……と、
「6年になるとねえ、『トウキョウ』子さんが」
再び、友人のエヴァンジェリスト少年の声が聞こえてきた。
「『東京』の『川崎』から転校してきたんだ」
広島市の翠町公園(今は、翠町第二公園というらしいが)の側を通りながら、友人から、彼が小学5年生の時に好きだった『帰国子女』子ちゃんのことを聞かされながら、翠町公園の東側の道を北上し、突き当りの角を左折し、次の道角を今度は右折していた。
「『トウキョウ』子さんのウチは、皆実小学校に近いところだったから、あっちの方だんだ」
と、友人は、西北方向の皆実町方面を指差し、今度は、彼が小学6年生の時に好きだった子のことを話し始めた。勿論、これも興味の話であったが、
「ふうん、そうなんだ」
と、ちゃんと返事はしたのは、エヴァンジェリスト少年が唯一人の友人であったからだ。
「(そうだ。今もそうだが、ボクには友人は殆どいない。アイツだけが友人だ。だから、毎日、牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、翠町中学の東側の道を北上し、翠町のアイツのウチまで行き、一緒に皆実高校まで通学するようにしたのだ、あの頃は…….ん?)」
目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻った。
「トンミー・サアン!」
と、名前を呼ばれ、重い瞼を上げたビエール・トンミー氏は、自分が薬局にいることを思い出した。
「はい…」
と弱った声で返事し、ふらつきの残る体を起き上がらせ、腰高の白いパーティションで仕切られたカウンターの一つに向った。
「うぷっ!」
眼も虚ろなままカウンターの椅子に座ったビエール・トンミー氏は、思わず噎せた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿