2020年2月21日金曜日

うつり病に導かれ[その22]






「…ああ…『エヴァPay』、使えますか?」

熱に浮かされながらも、ビエール・トンミー氏は、『ギャランドゥ・クリニック』の受付で、スマフォ決済を口にした。昨年(2019年)10月以来、ポイント集めに必死となっているのだ。

「は?『エヴァPay』?なんですか。それ?使えません」



と、あっさりと否定され、現金で支払を済ませ、処方箋を手に、ふらつきながら『ギャランドゥ・クリニック』を出た。

「(ここか…)」

薬局は、『ギャランドゥ・クリニック』と同じ医療ビルの中にあった。

「(アニータ?変った名前だ。でも、どこかで聞いたことがあるような…)」

『メディシン・アニータ薬局』が、その薬局の名前であった。

「少々お待ち下さい」

受付に処方箋を渡し、椅子に座り、眼を閉じ、待つ。

……と、

「6年になるとねえ、『トウキョウ』子さんが」

再び、友人のエヴァンジェリスト少年の声が聞こえてきた。

「『東京』の『川崎』から転校してきたんだ」




広島市の翠町公園(今は、翠町第二公園というらしいが)の側を通りながら、友人から、彼が小学5年生の時に好きだった『帰国子女』子ちゃんのことを聞かされながら、翠町公園の東側の道を北上し、突き当りの角を左折し、次の道角を今度は右折していた。

『トウキョウ』子さんのウチは、皆実小学校に近いところだったから、あっちの方だんだ」

と、友人は、西北方向の皆実町方面を指差し、今度は、彼が小学6年生の時に好きだった子のことを話し始めた。勿論、これも興味の話であったが、

「ふうん、そうなんだ」

と、ちゃんと返事はしたのは、エヴァンジェリスト少年が唯一人の友人であったからだ。

「(そうだ。今もそうだが、ボクには友人は殆どいない。アイツだけが友人だ。だから、毎日、牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、翠町中学の東側の道を北上し、翠町のアイツのウチまで行き、一緒に皆実高校まで通学するようにしたのだ、あの頃は…….ん?)」

目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻った。

「トンミー・サアン!」

と、名前を呼ばれ、重い瞼を上げたビエール・トンミー氏は、自分が薬局にいることを思い出した。

「はい…」

と弱った声で返事し、ふらつきの残る体を起き上がらせ、腰高の白いパーティションで仕切られたカウンターの一つに向った。

「うぷっ!」

眼も虚ろなままカウンターの椅子に座ったビエール・トンミー氏は、思わず噎せた。


(続く)



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