(うつり病に導かれ[その17]の続き)
「おや、どうなさいました?」
ドクトル・ギャランドゥは、診察室に入ってきた老人に声をかけた。
「さあ、お掛け下さい。」
老人ではあるが、まだ腰が曲がる程の歳ではない患者が、かなりの前傾姿勢で、顔も真っ赤にしていた。
「トンミーさんですね。苦しいですか?」
椅子に座ったビエール・トンミー氏は、股間に両手を当て、まだ身体を前傾させていた。
「いえ、大丈夫で…いや、熱があります。咳も鼻水も…」
「熱は、39度1分ですね」
受付で熱を測るように云われていたのだ。
「では、インフルエンザの検査をしましょう。ローラくん」
ドクトル・ギャランドゥは、看護師ローラに検査を指示し、自分は、PCに向かい、電子カルテに入力し始めた。
「では、トンミーさん、顔を少し上に向けて下さい」
と、減菌綿棒を患者の鼻腔に差し込んだ。
「(ふん、何!?この爺さんも変態なの?)」
爺さんが、顔を上げると共に、両手が離れ、股間にまだ残る『異変』を目にすることになったのだ。そして、その『異変』の原因を誤解した。
「(男性患者って、皆、アタシ目当てなんだから)」
減菌綿棒で鼻甲介を擦る。
「うっ!」
ビエール・トンミー氏は、顔を歪めた。
「(でも、この爺さん、よく見ると、イケメンねえ)」
ビエール・トンミー氏がかつて、『自由ヶ丘のアラン・ドロン』、『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれていたことは知らず、今時の娘は、
「(吉沢亮みたいだわ)」
と思いながら、綿棒を検査キットの検体希釈液に入れ抽出した検体を、濾過フィルターに入れ、テストデバイスに滴下する。
「(この爺さんとでもいいかも)」
同棲していた男は60歳近い熟女と浮気したのだ。その仕返しの思いもあった。しかし……
「ふう……」
ビエール・トンミー氏は、ここ最近なかった程の高熱が、松坂慶子に酷似した女性、外田有紀に酷似した女性との接触で更に高くなり、看護師ローラが放つ色香を感じ取ることは、残念ながらできなくなっていた。
(続く)
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