2020年2月14日金曜日

うつり病に導かれ[その15]






「あら、随分、痛めましたのね。ごめんなさい」

と、内田有紀が、いや、内田有紀に酷似した娘(といっても、40歳台と見えたが)が、吐いた息を顔に受けた。ビエール・トンミー氏は、内田有紀に酷似した娘から、両手で股間を隠したが....

「(んぐっ!)」

ビエール・トンミー氏は、更に顔を赤らめた。鼻は詰まっていたが、芳しい香りを肺の中まで感じた。

「まあ、大変。苦しそうですわ!」
「いえ、だ、だ、大丈夫です。風邪ですから」

再度、内田有紀に酷似した娘が吐いた息を顔に受けた。



「(んぐっ!)」
「あら!?」

内田有紀に酷似した娘が何かに気付いたかのように見えたが、

「松坂さーん」

受付が呼ぶ声がした。

「はーい!」

内田有紀に酷似した娘が、返事をした。

「母ですの。私は、外田です。外田有紀です。内田ではなく。ふふ」

と訊いてもいないことを、しかも、こちらの心読んだかのようなことを云って、受付に向った。

….と、

「ん?」

右肩に何かを感じ、顔を向けた。

「え!」

内田有紀に酷似した娘の母親、先程、倒れ込んできた女が、眼を閉じ、頭をビエール・トンミー氏に乗せてきていた。

「……ふうう……」

苦しそうになっている女の顔を初めてちゃんと見た。

「(松坂慶子!)」


(続く)




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