(うつり病に導かれ[その14]の続き)
「あら、随分、痛めましたのね。ごめんなさい」
と、内田有紀が、いや、内田有紀に酷似した娘(といっても、40歳台と見えたが)が、吐いた息を顔に受けた。ビエール・トンミー氏は、内田有紀に酷似した娘から、両手で股間を隠したが....
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、更に顔を赤らめた。鼻は詰まっていたが、芳しい香りを肺の中まで感じた。
「まあ、大変。苦しそうですわ!」
「いえ、だ、だ、大丈夫です。風邪ですから」
再度、内田有紀に酷似した娘が吐いた息を顔に受けた。
「(んぐっ!)」
「あら!?」
内田有紀に酷似した娘が何かに気付いたかのように見えたが、
「松坂さーん」
受付が呼ぶ声がした。
「はーい!」
内田有紀に酷似した娘が、返事をした。
「母ですの。私は、外田です。外田有紀です。内田ではなく。ふふ」
と訊いてもいないことを、しかも、こちらの心読んだかのようなことを云って、受付に向った。
….と、
「ん?」
右肩に何かを感じ、顔を向けた。
「え!」
内田有紀に酷似した娘の母親、先程、倒れ込んできた女が、眼を閉じ、頭をビエール・トンミー氏に乗せてきていた。
「……ふうう……」
苦しそうになっている女の顔を初めてちゃんと見た。
「(松坂慶子!)」
(続く)
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