2020年2月19日水曜日

うつり病に導かれ[その20]






「いや~ん!」

看護師ローラが、気の強い女にしては可愛い悲鳴を上げた。診察を終え、診察室の出口に向かおうとした老患者が、ふらついて倒れかかってきたのだ。

「う、う…」

ビエール・トンミー氏は、虚ろな眼で小さく呻いた。

「あ、ごめんなさい」

ビエール・トンミー氏の体を支えた看護師ローラは、看護師の自覚を取り戻した。

「大丈夫ですか?」

体を支えられたままビエール・トンミー氏は、顔を少し上げ、

「あ…だ、大丈夫で…失礼…」

と、答えたが、体は看護師に預けたままであった。

「(んぐっ!)」

看護師ローラは、思わず『反応』した。彼女の胸に老患者の頭が乗っかっていたから、ではない。少なくとも、それだけのせいではなかった。



「(く、臭っ!)」

これまで嗅いだことのない臭気が、下から顔を襲ってきたのだ。

「(なに、これえ!...でもお…)」

臭気は、老患者から発せられたものであることは明らかであった。であれば、体を直ぐに話せばいいものを、看護師ローラは、老患者の頭が胸に乗るがままにしておいた。


(続く)



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