(うつり病に導かれ[その19]の続き)
「いや~ん!」
看護師ローラが、気の強い女にしては可愛い悲鳴を上げた。診察を終え、診察室の出口に向かおうとした老患者が、ふらついて倒れかかってきたのだ。
「う、う…」
ビエール・トンミー氏は、虚ろな眼で小さく呻いた。
「あ、ごめんなさい」
ビエール・トンミー氏の体を支えた看護師ローラは、看護師の自覚を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
体を支えられたままビエール・トンミー氏は、顔を少し上げ、
「あ…だ、大丈夫で…失礼…」
と、答えたが、体は看護師に預けたままであった。
「(んぐっ!)」
看護師ローラは、思わず『反応』した。彼女の胸に老患者の頭が乗っかっていたから、ではない。少なくとも、それだけのせいではなかった。
「(く、臭っ!)」
これまで嗅いだことのない臭気が、下から顔を襲ってきたのだ。
「(なに、これえ!...でもお…)」
臭気は、老患者から発せられたものであることは明らかであった。であれば、体を直ぐに話せばいいものを、看護師ローラは、老患者の頭が胸に乗るがままにしておいた。
(続く)
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