(うつり病に導かれ[その10]の続き)
「ここなんだあ……」
エヴァンジェリスト少年は、自分の世界に浸り、呟いた。
「ここなんだよ、『帰国子女』子ちゃんが通っていたのは」
広島市の翠町公園(今は、翠町第二公園というらしいが)の東南角に差し掛かったところであった。
「向こうに少し行ったところが『帰国子女』子ちゃんのウチだったんだ」
と、宇品線方面を指差し、興味のないことを勝手に教えてきたが、
「ふうん、そうなんだ」
と、ちゃんと返事はしたのは、エヴァンジェリスト少年が唯一人の友人であったからだ。
「(そうだ。今もそうだが、ボクには友人は殆どいない。アイツだけが友人だ。だから、毎日、牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、翠町中学の東側の道を北上し、翠町のアイツのウチまで行き、一緒に皆実高校まで通学するようにしたのだ、あの頃は…….ん?)」
目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻った。
「……ふうう……」
と、開いたドアから、よろけるような息が漏れ出してきた。
「ああ、まだ苦しいわあ」
(続く)
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