(うつり病に導かれ[その5]の続き)
「あ…!」
ドクトル・ギャランドゥは、松坂慶子、いや、松坂慶子に酷似した女性のは背後にいる女性に眼を向けた。
「(外田さん!)」
松坂慶子に酷似した女性である松坂慶美を両手で支えるようにしていたのは、時々、診察を受けに来る外田有紀であった。
「ウチに遊びにきていた母が、熱を出したんです、先生。37.4度しかありませんけど」
松坂慶美は、外田有紀の母親だったのだ。
「(内田有紀の母親が、松坂慶子か!)」
外田有紀は、上品で清楚な女性で、内田有紀に酷似している女性であったのだ。
「でも、もしインフルエンザだったら、と思いまして。本人も参っていますので」
と、内田有紀が、いやいや外田有紀が凝視めてきた。
「(んぐっ!)」
白衣の下で、両足を窄めた。タイプの女性であったのだ。
「もう死にそうやわあ、ふうう」
松坂慶子、いやいやいやいやいや、松坂慶美が、関西弁で訴える。
「(大袈裟だなあ。いい歳をして。それに、なんだその関西弁は。なんだか変な関西弁だなあ)」
しかし、外田有紀の母親である。イラつきを表には出さず、左手を松坂慶美の顎に持っていくと、
「お母さん、アーンして下さい」
と云った。
「アーンすればよろしゅおますのね?はーい、アーン」
「(いちいちムカつく関西弁だなあ)」
しかし、次に松坂慶美の瞼を下げ、確認すると、
「では、胸を拝見しましょう」
と、聴診器を耳に付けた。
「あらま。そんな恥ずかしいわあ」
松坂慶美は、体をくねらせた。
(続く)
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