(うつり病に導かれ[その16]の続き)
「トンミーさーん」
診察室のドアが開き、看護師のローラが顔をのぞかせた。
「診察室にお入りくださーい」
と呼ばれたものの、ビエール・トンミー氏は、直ぐには立ち上がれなかった。
「……」
体の一部に生じた『異変』のせいであった。
「大丈夫ですか?」
心配した外田有紀が、ビエール・トンミー氏の体に手を回した。
「(んぐっ!)」
ますます立ち上がりにくくなった。
「ま、お苦しそう…」
外田有紀が、更に体を近付けてきた。そして、吐いた息をまたもや、顔に受けた。
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、苦しかったが、どこか幸福も感じた。
「トンミーさーん」
看護師のローラが、少し苛立ち気味の声で再び、呼んだ。
「あ、はーい」
なんとか返事をし、身体を『くの字』に曲げたまま、ビエール・トンミー氏は立ち上がった。
「お大事に」
という外田有紀の声を背に、腰の曲がった老人のようにビエール・トンミー氏は、診察室に向った。
「(これでは、ボクは、内田有紀に、いや、外田有紀さんに、『爺さん』だと思われてしまう…)」
と思いながら、診察室に入った。
(続く)
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