2020年2月16日日曜日

うつり病に導かれ[その17]






「トンミーさーん」

診察室のドアが開き、看護師のローラが顔をのぞかせた。

「診察室にお入りくださーい」



と呼ばれたものの、ビエール・トンミー氏は、直ぐには立ち上がれなかった。

「……」

体の一部に生じた『異変』のせいであった。

「大丈夫ですか?」

心配した外田有紀が、ビエール・トンミー氏の体に手を回した。

「(んぐっ!)」

ますます立ち上がりにくくなった。

「ま、お苦しそう…」

外田有紀が、更に体を近付けてきた。そして、吐いた息をまたもや、顔に受けた。

「(んぐっ!)」

ビエール・トンミー氏は、苦しかったが、どこか幸福も感じた。

「トンミーさーん」

看護師のローラが、少し苛立ち気味の声で再び、呼んだ。

「あ、はーい」

なんとか返事をし、身体を『くの字』に曲げたまま、ビエール・トンミー氏は立ち上がった。

「お大事に」

という外田有紀の声を背に、腰の曲がった老人のようにビエール・トンミー氏は、診察室に向った。

「(これでは、ボクは、内田有紀に、いや、外田有紀さんに、『爺さん』だと思われてしまう…)」

と思いながら、診察室に入った。


(続く)



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